遺産は内縁の妻だって受け取れる!生活のために準備をしよう!

「内縁の妻や夫は相続ができない」というのはよく知られた話だと思います。ですが、この言葉は半分アタリであり、半分はハズレなんです。内縁の妻や夫は事前準備により遺産を受け取ることができます。お互いの遺産は生活面でも欠かせない、今後の人生さえ左右する物といえます。他にも内縁が「できること」「もらえるもの」は意外と多いんです。



内縁は遺産を手にできる!

内縁の夫や妻は相続することができません。なぜなら、法律で保護されるべき婚姻関係にないからです。現在の法律は、婚姻届を提出して結ばれるという法律婚を推奨しており、相続人になれるのは婚姻関係にある男女だけです。

二十年連れ添った内縁の妻は内縁の夫が残した預金を一円も受け取れず、結婚して三日後に夫を亡くした新妻は夫の資産の多くを受け取ることができる。不条理な感がしないでもありません。

近年は少しずつ内縁関係にある男女を婚姻関係にある男女同様……とまではいかなくても保護しようという考えからか、内縁関係でももらえるお金や行使できる権利が増えてはいます。ですが、相変わらず相続はできません。

実務として考えても、内縁関係をどうやって証明するの?という問題があります。婚姻関係は戸籍に記載されますが、事実婚である内縁関係は戸籍などの公的な書類で証明するのは難しいです。ですから、厳格な、相続を始めとした手続きでは慎重にならざるを得ないという部分もあるでしょう。

相続手続きには戸籍謄本が必須です。なぜ必須かというと相続関係を証明するためだと言えます。将来的に内縁関係に関する考え方や法律がもっと変化すれば戸籍謄本の提出に変わる手段も定められるかもしれませんが、今は「相続人にはなれず」「証明できない」ことに違いはありません。

ですが、内縁関係が悪くて婚姻関係が良いというわけではありません。内縁にも婚姻にもメリットとデメリットがあります。どちらの関係を選ぶかはその男女の価値観や生活スタイルにも関わってくるでしょうから、生活スタイルやメリット、デメリットをよく考えて選択したのなら、それが二人の最良の関係なのだと思います。

関係としては最良であっても、相続できないのは事実。相続財産は残された方の生活費という側面もありますので、まったく無しでは生活が不安です。事前に準備さえすれば、内縁の配偶者でも遺産を受け取る方法はありますし、他にも手にできるお金や行使できる権利があります。

相続はできない内縁。ですが、そんな内縁にも認められた権利は色々とあります。この記事では内縁にもできる遺産を受け取る方法の説明と、内縁が行使できる各種の権利についてご説明します。



遺産を手にする具体的な方法

内縁関係の場合は婚姻関係の場合と異なり相続自体はできません。ですから、自分から動き出さないと遺産を始めとして生活に欠かすことのできない財産を手にすることはできなくなります。財産と一言に言いますが、自分達のライフスタイルとして内縁関係を選び、結果として築いたものでもあります。パートナーが亡くなる前に何をするべきなのか、具体的な手続き方法を紹介します。

最も活用すべきは遺言

内縁関係の場合、法律で定められた遺産の取り分はありません。また、婚姻関係にある男女のように遺留分(必要最低限の遺産の取り分)もありません。法律的に結婚している男女は黙っていてもお互いの相続人になれますが、内縁関係だとそうはいきません。法律自体にも内縁に相続を認めた条文はありません。

こういったケースの場合、最も活用すべきは遺言です。遺言は亡くなった人の意思により遺産を渡す方法です。遺言でなら赤の他人に全財産を渡すことも可能です。赤の他人にも渡せるのですから、内縁の夫や妻にも遺言によって遺産を全て渡すことができるのは当然のことなのです。

内縁の夫や妻に他の相続人がいた場合も遺留分を主張されることはあれ取り分が零にはならない方法ですから、最も有効な内縁関係における遺産を渡す方法と言えます。内縁の配偶者に相続人がいなければ遺言書さえあれば全ての遺産を受け継ぐことも可能です。ですから、お互いの遺産を受け継ぎたい場合は真っ先に遺言を活用すべきです。

「遺言」というと固い印象があると思います。事実、遺言は死後にその人の意思を伝え遺産を受け継ぐべき人を指定したり分割方法を指定するものですから、法律で厳格に満たすべき要件が定まっています。しかし、最も簡単な遺言方式である「自筆証書遺言」であれば、側に判子さえ用意しておけば5分で作成することができます。

自筆証書遺言の要件は、「記名」「押印」「自筆」「日付」です。PCは使用不可で自分の手で本文を書き、その上で記名押印します。判子は認印で問題ありません。日付は年月日です。ただ、後のトラブルを考えると、特に内縁の妻や夫の他に相続人がいる場合は、自筆証書遺言よりも公正証書遺言を使った方が安心だと思います。

日本公証人連合会
参照元:日本公証人連合会(2015年11月、著者調べ)

公正証書遺言(日本公証人役場連合会)
参照元:日本公証人連合会(2015年11月、著者調べ) 公正証書遺言は公証役場で作成し、どんな意思のもとに遺言をしたいのかを公証人が聞いた上でアドバイスを行い、要件の不備がないようにチェックもいたします。自筆証書遺言は自分で簡単に作れる遺言である反面、要件を具備していなかったというケースや後に争いになるケースが少なくありません。

公正証書遺言ならば要件を備えていなかったということもほとんどなく、自筆証書遺言よりも安心です。内容を秘密にしたい場合は、同じ公正証書遺言ながら中身を秘密にするという秘密証書遺言も作成可能です。

内縁の夫や妻に遺産を渡したいという場合は、後に争いにならないように考え、公正証書遺言を活用することがお勧めです。また、場合によっては弁護士などに自分の死後に適正に遺言の内容を執行し手続きを行ってもらうように、遺言執行者を立てることも検討した方が安心かもしれません。遺言執行者は後に裁判所に選任を申し立てることもできます。

内縁関係の妻や夫に遺産を渡す場合は、何もしなければ遺産は入って来ません。自分たちでお互いが亡くなる前に準備する必要があります。「遺言」は内縁関係の夫や妻に遺産を渡したい場合は、とても優れた方法であると言えます。

裁判所|遺言執行者の選任
参照元:裁判所(2015年11月、著者調べ)

生命保険を活用する

生命保険金は相続財産に含まれませんので他に相続人がいても、内縁の夫や妻を受取人にしていれば相続の対象にはなりません。受取人の固有の財産になります(最高裁判所、昭和44年2月2日の判例より)。

内縁の夫や妻は相続人にはなれません。しかし、遺言をすることによりパートナーの遺産を受け継ぐことができますし、また、こういった相続財産に含まれず受け取り人の固有財産になるお金を活用すれば後の生活を支える重要な資産になります。「相続財産にならない」「指定された人の固有財産になる」これは覚えておく必要があります。

死亡弔慰金と死亡退職金

生命保険金とセットで覚えたいのが死亡弔慰金や死亡退職金です。

死亡弔慰金や死亡退職金は相続財産に含まれません。つまり、相続の対象ではないということです。ですから死亡弔慰金は、会社の規定によりますが、事実婚の配偶者を弔慰金の受取人として指定できる場合があります。また、内縁の配偶者に相続人がいても、相続財産ではないわけですから、受け取った内縁の配偶者のもの(固有財産)となります(最高裁判所、昭和55年11月27日、昭和58年10月14日、昭和60年1月31日、判例より)。

死亡弔慰金や死亡退職金の受け取りに関しては会社ごとに異なりますので確認が必要です。しかし、相続財産ではなく受け取った人の固有のものになるという意義は非常に大きいため、事前に是非とも確認しておきましょう。

給付や未払い金

市町村で行っている葬祭費用の補助は、実際の喪主や葬祭費用を負担した人という形で定められている場合が多く、相続人である必要はありません。他、給付金や年金の未払い金が発生した場合もそれぞれに給付を受けることのできる人の範囲が決められており、絶対に相続人という形では定められていない場合があります。相続ではありませんが、生活のことを考えて給付できるものはきちんと申請し、未払い分も活用したいところです。

年金の未払い分や葬祭費用補助金は相続財産、つまり相続人で分割すべき財産ではなく、生命保険金や死亡弔慰金、死亡退職金などの同じく受け取った人の固有財産になります。

相続分の譲渡

相続分を譲渡してもらうという方法もあります。

内縁といっても、内縁の夫や妻との関係が秘密のものであるというケースだけではないと思います。ただ法的に結婚していないだけで夫婦とまったく変わりない生活をしている事実婚の夫婦も多いのではないでしょうか。お互いの両親や親族ともある程度良好な関係を築いているなら、親族の相続分を譲渡してもらうということも可能です。譲渡は相続人間だけでなく、赤の他人に対しても、もちろん内縁の夫や妻に対してもできることです。

譲渡よりも遺言の方が話が早いのですが、遺言の準備をしていなかった場合でパートナーの相続人とある程度良好な関係を築き、信頼関係があれば譲渡の相談をしてもいいかもしれません。同居などの理由により家族として暮らしているなら、事実婚や法律婚に関係なく相続のことで話し合うのは良いかと思います。

生前の贈与

生前に住んでいる不動産や預金などの贈与を受けるという手段もあります。例えば内縁の夫が体を壊し余命宣告という場合に夫の不動産の持分や預金を妻へ、ということもできます。一緒に住んでいる家を内縁の妻と夫が共有している(1/2ずつもっているなど)という場合は持分移転の登記をして全て奥さんのものにしてしまえば相続が発生しても安心です。

遺言は確実な方法ではありますが、遺言を巡って争いになる場合があったり、例え有効であっても相続人が両親や子供の場合は遺留分という悩みどころがあります。ですが、生前に相手にお金や不動産の持分を渡してしまえばそもそも別の人のものになるわけですから相続の対象にはならないというわけです。

ただし、人間は何時死ぬか分からない存在です。内縁の夫が余命宣告された翌日、内縁の妻が事故で亡くなることだってあり得ます。その場合、内縁の妻の相続人に生前贈与分が相続されてしまうというリスクもあります。

何も準備していない場合は?

何も準備していない場合でも、遺産を受け取れないというわけではありません。例外的に相続人が誰もいない場合でかつ共有者もいない場合は内縁の夫や妻が裁判所に申請することにより遺産を受け取ることができます。ただし、そこまでに辿る道と時間が長い!相続人の不存在が確定し内縁の夫や妻が遺産を手に入れるとしても一年以上の時間がかかります。

それに、相続人の不存在は、戸籍から分かるものではありません。戸籍を見て「相続人がいないから不存在だ」と決めつけるのは早計です。実子でありながら他人の子として届け出がなされているようなケースがあるからです。また、相続人に失踪宣告がなされていたり、相続人が行方不明という場合は不存在ではありません。裁判所側で手続きを進めますので、各種証拠を精査した結果、ひょっこり相続人が見つかることもあります。

内縁の場合は「特別縁故者」として、書類や情報を確認してそれでもまったく相続人が見つからず、その上でいなかった場合にやっと自ら手続きすることでもらえる可能性があります。自分から手続きしても、遺産を渡すかどうかは裁判所が判断しますので「駄目」と言われることだってあるわけです。

特別縁故者である内縁が遺産を受け取るまで確実に一年以上かかる。しかも、相続人が調査をしてもまったくいない、共有者もいない、その上で手続きしても裁判所が渡すかどうかを判断するため絶対ではない。内縁が遺言などにより準備をしていない場合は、このような特別縁故者として受け継ぐ方法しかありません。

なお、特別縁故者の範囲には内縁だけでなく、介護に力を尽くした看護師や、相続権のない親類縁者、友人なども含まれます。内縁だけが特別縁故者ではない、つまりライバルは非常に多いことになります。パートナーが亡くなってから不確定な立場に置かれ生活が不安定になるよりだったら、確実な方法である遺言や、相続財産に含まれず個人を受取人指定できるような資金を活用しましょう。



遺産以外にも多い内縁の権利

財産分与

婚姻関係にある男女同様に、内縁関係にある男女も関係が破綻し縁を切るとなった場合は財産分与の請求が可能です(民法768条)。離婚の時のように財産を分けることになります。婚姻届を出していない関係だけれど、関係が切れる時の処理は非常に似たものです。

ただし、この財産分与を相続の代わりに使うことはできません。どういうことかというと、相続できないから相続財産に対し財産分与を請求するということです。相手と生きている場合に縁を切るなら財産分与は認められますが、死別した場合は財産分与請求はできませんのでご注意ください(最高裁判所、平成12年3月10日の判決より)。

死別した場合はあくまで相続の問題になります。ですから、遺言や生前の贈与などで対処することになります。

慰謝料請求

内縁関係の場合、相手が浮気をした(不貞行為をした)場合は婚姻関係にある男女と同様に慰謝料の請求が可能です(民法768条)。ただ単に法律的な届け出をしていないだけで、内縁は生活費を分担し、お互いを扶養し支える存在です。婚姻届が抜け落ちているだけの存在であると言えます。ですから、内縁関係の夫が浮気をしたせいで関係が破綻したら、内縁の妻は慰謝料を請求することができます。

慰謝料額は内縁関係の期間や子供の有無で異なります。また、住居が別であっても内縁関係が認められるケースがあります。ただし、内縁と同棲は別物ですので、「彼氏と同棲してるの」だけでは内縁関係とは見なされないと思われます。夫婦そのもので婚姻届を出していないだけの関係こそが「内縁」と思えば分かりやすいと思います。

年金の分割請求

内縁関係の場合、関係が破綻した場合は年金の分割請求が可能です。婚姻している夫婦が離婚の際に分割を請求できることと同じです。内縁では婚姻届を提出していないので離婚はできませんが、関係が破綻した場合は離婚と同様に解釈されることも多いです。相続の権利はありませんが、内縁の場合は権利も意外と多いのです。

離婚時の年金分割|日本年金機構
参照元:日本年金機構(2015年11月、著者調べ)

裁判所の判例

最高裁が不動産や賃借に関して内縁の配偶者を保護した例があります。

最高裁判決昭和39年10月13日の例では、相続人である養子に内縁の配偶者が「出て行け!」と言われましたが、最高裁は相続人が離縁を予定していた養子であることなどを理由として内縁の妻を守りました。簡単に説明すると、「相続人ではないけど内縁さんは住んでいていいよ」ということです。

最高裁判決昭和42年2月21日の例では、被相続人が家を借りていた(賃借権を持っていた)のですが、賃借権を相続した相続人に内縁が「出て行け!」と言われてしまいました。この場合も最高裁は「相続人の賃借権を援用できるよ。住んでいていいよ」という判断を下しました。

判例それぞれで家庭事情が異なりますので、「内縁夫婦が住んでいた家を相続人が相続し、内縁に出て行けと言ったケース」でも同じ判決が下るとは限りません。しかし、このような前例があるのだよということは覚えておいて損はありません。

まとめ

内縁関係の男女にはお互いを相続することはできません。ただ、まったく遺産を手にすることができないわけではなく、遺言という方法がありますし、生前贈与という手段もあります。相続人との仲が良好で家族のようなものという関係であれば内縁の夫の相続に関して譲渡してもらえないかと相談しても良いでしょう。内縁関係の場合は相続権がないのは確かなので、「何もしなければ遺産を手にすることはできない」という言葉が正しいのではないでしょうか。

他、相続ではありませんが、内縁関係でも手にできる生命保険金や死亡退職金などもありますし、行使できる権利もあります。今後の社会次第ではもっと認められることが増えることだってあり得るかもしれません。

パートナーが亡くなっても生活は続きます。生活のためにはお金が必要です。しかし相続が発生し今までの生活が崩れてしまうと、生活さえままならなくなります。内縁関係を続けるか、法的に籍を入れるかはその人たちの価値観やライフスタイルに関わることなので一概にどちらが正しいとは言えません。だからこそ、それぞれのメリットやデメリットを把握して、早め早めに動いてみませんか? ※本記事は一般的な情報に過ぎず、適用法令等の改正、前提事実や個人状況の違いおよび変化によって、掲載内容と実際の結果が異なってしまう可能性があります。従って本記事の掲載内容については一切の責任を負いかねますので、内容の解釈や実践はご自身の責任で行い、専門家に相談されることを推奨いたします。