介護保険が二割負担になる境目って?誰でもできる簡単計算方法

2015年8月から介護保険の二割負担制度が始まりました。今までの自己負担が1割だったのが2倍に?と思いきや全員がそうでないことに安心はしたものの、自己負担の額は決して安いとはいえないようです。介護は予期しない人に発生した場合、本人も家族も自己負担が1割なのか2割なのか心配になってしまいますね。あなたの親や祖父母が要介護になったときの負担額を前もって調べておくのも良いのではないでしょうか。



介護保険サービス

始まった自己負担の増額

介護保険制度が開始されたのは平成12年4月で、介護サービスは各市区町村で運営し介護を必要とする方へ介護の程度に応じ手当を支給することになっています。利用者は支給された額の範囲内で利用するサービスの計画を立ててもらい、実際に利用した額の1割を負担することになっていました。

介護保険料は年齢が40歳以上の方が加入(被保険者)して健康保険組合や共済組合および国民健康保険をとおして納め、介護が必要と認定されれば介護サービスを受けることができるのです。年齢が達すれば自動的に被保険者となるため介護保険の加入のための手続きは何もありません。

しかし少子高齢化が進む中、各市区町村の負担している割合が次第に増えてしまい、このままでは介護保険制度を運営しきれないとの考えから2015年8月から一定以上の所得のある方を対象に従来の1割負担から2割負担へ大幅な改正がされました。

一定 以上所得者の負担割合の見直しについて
参照元:厚生労働省(2016年1月、著者調べ)

加入者の種別と財源

介護保険は年齢によって2つに区分されています。年齢が65歳以上の方は「第1号被保険者」、年齢が40歳以上65歳未満の方を「第2号被保険者」としています。このうち第2号被保険者が介護サービスを利用するには要介護を認定される条件があり、申請すれば誰でも介護サービスを利用できるわけではありません。

しかし第1号被保険者は要介護となった原因についての条件はなく、申請して認定されればすぐにケアプランが作成され介護サービスを利用することができるのです。自然な流れとして利用者は増え続け各市区町村は介護制度の運営が厳しくなってしまいます。

介護保険の財源は、全体の予算のうち第1号被保険者の支払う保険料が約22%、第2号被保険者の支払う保険料が28%であり残りの50%は税金で賄っていることになります。要は被保険者が納める保険料だけでは運営できないのです。民間の保険会社は加入者が納める保険料で営業しているのに、公的介護保険は税金の支援がないと存続することができないことになりますね。

税金のさらなる投入は難しいのでしょう。そこで今回の改正により第1号被保険者、つまりサービスの利用が多い65歳以上の方を対象に自己負担を1割から2割へと引き上げられました。

渋谷区/制度のしくみ
参照元:東京都渋谷区(2016年1月、著者調べ)

介護保険制度の実施状況

厚生労働省の資料によれば第1号被保険者は介護保険制度が始まった平成12年4月時点で、被保険者数は2,165万人だったのが平成25年4月時点で3,103万人と約43%の増加なのに対し、要介護(要支援)認定者は平成12年4月時点で218万人だったのが平成25年4月時点では564万人と約159%も増加しています。

被保険者1人あたりの認定者数は当初、被保険者の10人に1人だったのが平成25年では被保険者の5.5人に1人が認定されており、いかに急激な増加であることが分かります。

公的介護保険制度の現状と今後の役割
参照元:厚生労働省(2016年1月、著者調べ)



介護保険サービス「二割負担」の対象者

第1号被保険者の20%

65歳以上の第1号被保険者の全員が2割負担になるわけではありません。2015年8月から自己負担が増えたのは介護サービスを利用している方の約20%にあたります。具体的な条件は合計所得金額が160万円以上でかつ以下の条件を満たしている方です。

・1人世帯
:年金受給額とその他の収入所得金額の合計が280万円以上

・2人世帯以上
:年金受給額とその他の収入所得金額の合計が346万円以上

ちょっと分かりにくいですね。数字が160万円や280万円、346万円となっているのに判断に迷ってしまいます。役所の方たちは簡単に所得や収入、合計所得といった専門的な用語を平気で使いますが一般人にとってはなんのことやらさっぱり分かりません。

しかし収入と所得の計算ができないと1割負担になるのか2割負担になるのが判断できませんので、次の項では収入と所得の関係をご説明します。

一定 以上所得者の負担割合の見直しについて
参照元:厚生労働省(2016年1月、著者調べ)

収入と所得の考え方

まず、必ず「収入=所得」ではないということを理解しましょう。収入にはいろんな種類があり年金も収入の仲間に入り税務上は「雑所得」の類になります。他にも以下の種類があります。

・利子所得
・配当所得
・事業所得
・不動産所得
・給与所得
・退職所得
・譲渡所得
・山林所得
・一時所得
・雑所得

出典:

www.nta.go.jp
以上の種類の中で受け取った金額がそのまま「所得」となるのは利子所得、配当所得だけでその他のものは、受け取った年間の金額から差し引くことのできる金額があります。その差し引くことのできる金額のことを「〇〇控除」といい、年間に受け取った(稼いだ、もらった)金額のことを「年間収入」といいます。したがって年間所得と年間収入の関係は次のようになります。

・年間所得=年間収入-「〇〇控除」

よって年間所得160万円=年金額、ではないということですね。上記の所得の中でも主なものをピックアップしてご説明しましょう。

事業所得

事業所得は本人が何かの商売をしていて収入を得るいわゆる個人事業主にかかわるものですね。農業や漁業、製造業、サービス業など職種はたくさんありますが、所得金額の計算は一般的に次のように行います。

・事業所得金額=年間総収入-必要経費

必要経費については青色申告や白色申告によって異なりますのでここでは省略しますが、確定申告書に記載した総所得金額がその1年間の所得金額となります。例えば年間収入(売上)が200万円で必要経費が100万円なら200万円-100万円=100万円が確定申告する所得金額であり、今回の年間合計所得金額に含まれる金額となります。

No.1350 事業所得の課税のしくみ(事業所得)|所得税|国税庁
参照元:国税庁(2016年1月、著者調べ)

給与所得

給与所得は本人が勤務先から得る給料やボーナスのことで、もちろんパートやアルバイトも含まれます。収入金額は本人が仕事して得る給料の他にも種類がありますが、やはりここでは省略させていただきます。給与収入は給与所得控除が認められており、これは事業所得でいう必要経費と考えていいでしょう。

年間収入が162万5,000円以下なら給与所得控除の額は65万円です。なお所得金額との関係は次のとおりです。

・年間所得金額=年間収入額-給与所得控除

年間収入が100万円なら給与所得控除は65万円ですので差し引き35万円が所得金額となります。なお年末調整をする場合は基礎控除38万円も差し引くことができますが、介護保険でいう所得金額に基礎控除は計算しません。

以下に年間収入が162万5,000円以上の場合の所得控除額をご紹介しましょう。

給与収入/給与所得控除
162万5,000円超180万円以下/収入金額x40%
180万円超360万円以下/収入金額x30%+18万円
360万円超660万円以下/収入金額x20%+54万円
660万円超1,000万円以下/収入金額x10%+120万円

出典:

www.nta.go.jp

No.1410 給与所得控除|税について調べる|国税庁
参照元:国税庁(2016年1月、著者調べ)

No.1199 基礎控除|所得税|国税庁
参照元:国税庁(2016年1月、著者調べ)

年金収入(雑所得)

公的年金は税務上「雑所得」の種類に入ります。年金には公的年金等所得控除が認められており、年間所得との関係は次のようになります。

・年間所得金額=年間に受給した年金額-公的年金等控除額

年金の受給者が65歳以上の場合は受給する年金額が330万円未満なら120万円を差し引いた金額が所得金額となりますので、介護保険が2割負担になる所得金額160万円ということはその金額に120万円をプラスした金額280万円以上の年金額となります。

・年金額280万円-公的年金等控除額120万円=所得金額160万円

年間の収入が年金だけの方は年金額が260万円未満であれば1割負担で済む計算となりますね。しかい、年金以外に収入があると2割負担となる可能性もあります。次の項では具体例を上げて計算してみましょう。

高齢者と税(年金と税)|税について調べる|国税庁
参照元:国税庁(2016年1月、著者調べ)

介護保険サービス「二割負担」になる例

1人世帯の場合

1人世帯では合計所得金額が160万円未満なら1割負担で160万円以上になると2割負担となってしまいます。先ほどの例で所得が160万円は収入換算で280万円ということが分かっています。具体的に例を上げながら確かめてみましょう。

・収入が年金のみ
:年金額=所得金額160万円未満+公的年金等控除額120万円=280万未満
収入が年金だけの場合は分かりやすいですね。年金受給額が260万円未満なら1割負担で、260万円以上となってしまうと2割負担になります。

・収入が年金78万5,000円と内職の収入50万円
この場合は収入が2つありますのでそれぞれ計算します。
:①所得額=年金78万5,000円-公的年金等控除額120万円=0円
:②所得額=内職の収入50万円-給与所得控除65万円=0円
:③合計所得金額=①+②=0円
このように収入が2つある場合はそれぞれの所得金額を合計して160万円未満であれば1割負担で済みます。

・収入が年金200万円と事業収入が150万円
この場合も収入が2つありますのでそれぞれ計算します。
:①所得金額=年金200万円-公的年金等控除額120万円=80万円
:②所得金額=事業収入150万円-必要経費50万円=100万円
:③合計所得金額=①+②=180万円
年間合計所得金額が160万円以上となってしまいしたので、この場合は2割負担となります。このように収入が2つ以上ある場合は年収にして280万円未満という金額を意識しなければなりません。正確に書けば279万9,999円以内となりますね。

2人世帯の場合

夫婦ともに65歳以上の世帯ではもう少しややこしい判断になります。

・夫の年金290万円と妻の年金130万円
お互いに年金を受給している場合は夫と妻を別々に計算しなければなりません。
:夫の所得金額=年金290万円-公的年金等控除額120万円=170万円
:妻の所得金額=年金130万円-公的年金等控除額120万円=10万円
:世帯収入=夫の年金290万円+妻の年金130万円=420万円
2割負担となる基準に世帯の合計収入が346万円以上だと2割負担となっていますので、この世帯では収入が420万円です。346万円ははるかに超えていますので2人とも2割負担になってしまうのかと思えば、個人所得金額160万円も同時に満たすことが必要です。よって、所得金額170万円の夫は2割負担で妻は1割負担に分かれます。

・夫の年金174万円と妻の年金172万円
:夫の所得金額=年金174万円-公的年金等控除額120万円=54万円
:妻の所得金額=年金172万円-公的年金等控除額120万円=52万円
:世帯収入=夫の年金174万円+妻の年金172万円=346万円
世帯収入で見れば346万円ですから2割負担となりそうですが、やはり個人ごとの所得金額も条件に入ります。この夫婦はそれぞれ160万円未満の所得金額ですから夫も妻も1割負担で良いとなります。

・夫の年金180万円、家賃収入200万円と妻の年金78万円
この場合もそれぞれの収入に対する所得金額の計算からしなければなりません。
:①夫の所得金額=年金180万円-公的年金等控除額120万円=60万円
:②夫の所得金額=家賃収入200万円-必要経費60万円=140万円
:③夫の合計所得金額=①+②=200万円
:妻の所得金額=年金78万円-公的年金等控除額120万円=0円
:世帯収入は夫の年金+家賃収入+妻の年金=458万円
世帯収入346万円以上にはなりますが、妻の所得金額が160万円未満ですので妻は1割負担、夫は160万円以上ですから2割負担です。なお妻の公的年金等控除額120万円を引いても48万円余ってしまいますね。もし家賃収入を夫と妻の収入に分けることができれば(所得金額ベースで夫90万円、妻50万円)お互い160万円未満となりそうなので税理士と相談してみるのも良いかも知れません。

No.1370 不動産収入を受け取ったとき(不動産所得)|所得税|国税庁
参照元:国税庁(2016年1月、著者調べ)



負担額には上限がある

利用者負担の上限額

計算例でご説明したように所得金額が160万円以上になると自己負担額が2割になり、従来の1割負担額から見れば2倍となります。しかし介護保険で給付する金額以上のサービス(月単位)を利用した場合の自己負担額には上限が決められ、自己負担額を超えて支払った分は市区町村から返還されることになります。

なお上限額は住民税を納めているかどうかで分かれ、住民税を納めている場合(課税)で合計所得金額が145万円以上の方は4万4,400円が限度額となり、145万円未満の方は3万7,200円が限度額となります。

また住民税を納めていない場合(非課税)は合計所得金額が80万円超の方で2万4,600円、80万円以下の方は夫婦世帯なら2万4,600円、1人世帯なら1万5,000円が限度額となります。

その限度額を超えた分が高額介護サービス費として返還されることになっていますが、介護はいつまでという期限がないため、例えば4万4,400円や3万7,200円の限度額以内を毎月支払うだけでも大変な負担となるでしょう。

高額介護サービス費に含まれない費用もあるので注意が必要です。

(注)福祉用具購入費・住宅改修の利用者負担額、施設サービスなどでの食費・居住費・日常生活費などは、高額サービス費の支給対象とはなりません。

出典:

www.city.shibuya.tokyo.jp

渋谷区/高額介護サービス費の支給など
参照元:東京都渋谷区(2016年1月、著者調べ)

介護保険支給額

自己負担の限度が分かっても実際に負担する金額を知っておかなければ意味がありませんね。要介護状態によって支給される額が決まっていますので、以下に紹介しましょう。

要介護度/利用限度額(1か月)※以下の金額は目安です。
要介護1/166,920円
要介護2/196,160円
要介護3/269,310円
要介護4/308.060円
要介護5/360,650円

出典:

www.city.kita.tokyo.jp
以上の表を見てもお分かりのように、要介護1で約16万7,000円の額が支給され、利用者はその額の1割または2割を負担します。要介護2で1割負担なら約1万9,600円、2割負担で約3万9,200円です。その金額を超えた分の限度額が4万4,400円や3万7,200円です。見やすいようにまとめてみました。

・要介護1
:1割負担/約1万6,600円/限度額4万4,400円
:2割負担/約3万3,200円/限度額4万4,400円

・要介護2
:1割負担/約1万9,600円/限度額4万4,400円
:2割負担/約3万9,200円/限度額4万4,400円

・要介護3
:1割負担/約2万6,900円/限度額4万4,400円
:2割負担/約5万3,800円/限度額4万4,400円/払戻9,400円

・要介護4
:1割負担/約3万800円/限度額4万4,400円
:2割負担/約6万1,600円/限度額4万4,400円/払戻1万7,200円

・要介護5
:1割負担/約3万6,000円/限度額4万4,400円/払戻8,400円
:2割負担/約7万2,000円/限度額4万4,400円/払戻2万7,600円

要介護3になると自己負担限度額を超えその分が払い戻しされる仕組みです。しかし介護のために仕事をやめてしまったら1割負担でも大きいのに2割負担となってしまえば生活が成り立たなくなりそうです。

サービスの利用者負担について|東京都北区
参照元:東京都北区(2016年1月、著者調べ)

まとめ

いかがでしたでしょうか。1人世帯なら負担額が1割なのか2割なのか計算するのは簡単といえますが、夫婦の世帯となると少々ややこしい計算が必要になります。例え2割負担といっても限度額もありますので介護する側は過度なストレスを溜めないように、うまく介護サービスを利用することが大事でしょう。