遺留分の請求は当然の権利と考えよう!《超現実的な問題を解説》

遺留分を請求することは何の問題もありません。相続するはずだった財産を遺言によって相続できなくなった場合に、財産を相続した人に対し「権利が侵害された」と請求することにより最低限の財産を取り戻すことのできる権利です。しかし一度財産が相続されてしまうとなかなか取り戻すことが難しく裁判所へ調停を依頼することも珍しくはないでしょう。ただ残念なことに遺留分のない相続人がいるためいろんな問題も発生するようです。



遺留分とは

財産を持って亡くなった人に遺言書が遺されている場合があります。遺言書は生前に自分が亡くなったときのことを考え、財産の分割方法や誰に財産を相続させるかを自由に書くことができます。

遺言書がなければ民法上の定めによって財産を分割することもでき、相続人全員で話し合って財産の分割方法を決めることもできます。

しかし遺言書に「すべての財産は〇〇に受け継がせる」と書いてあった場合、財産をあてにしていた相続人は今後の生活もままならない状態になってしまい、最悪路上に放り出されてしまう可能性もあります。そのため民法では「法定相続分」を侵害された相続人に一定の割合で財産を相続できるように権利を与えられています。

遺言書に書いてあることをすべてなかったことにはできませんが、相続人は残された家族のためにも一度他人の手に渡ってしまった財産の一部を取り返すことができるような権利を行使しなければなりません。しかし相続人の中にはその権利が認められていない人もいるため、場合によっては相続争いに発展してしまうケースもあるようです。

相続人となりうる人

亡くなった人の財産を相続する人は家族なら誰でも良いわけではありません。また相続する順位や相続する割合も民法上で定められています。まずは相続人になれる人のおさらいをしておきましょう。

第八百八十六条  胎児は、相続については、既に生まれたものとみなす。
2  前項の規定は、胎児が死体で生まれたときは、適用しない。

第八百八十九条  次に掲げる者は、第八百八十七条の規定により相続人となるべき者がない場合には、次に掲げる順序の順位に従って相続人となる。
一  被相続人の直系尊属。ただし、親等の異なる者の間では、その近い者を先にする。
二  被相続人の兄弟姉妹

第八百九十条  被相続人の配偶者は、常に相続人となる。この場合において、第八百八十七条又は前条の規定により相続人となるべき者があるときは、その者と同順位とする。

出典:

law.e-gov.go.jp
基本的な相続人は以上のとおりです。亡くなった人の配偶者の親族は相続人になることはできず、伯父や伯母も相続人にはなれません。亡くなった人の直系の人は相続人になれ、相続人の範囲は広くても兄弟姉妹(または甥や姪)までとなります。

また相続割合も民法上で定められていますが、多くの相続は話し合いで決めることが多いといわれています。

第九百条  同順位の相続人が数人あるときは、その相続分は、次の各号の定めるところによる。
一  子及び配偶者が相続人であるときは、子の相続分及び配偶者の相続分は、各二分の一とする。
二  配偶者及び直系尊属が相続人であるときは、配偶者の相続分は、三分の二とし、直系尊属の相続分は、三分の一とする。
三  配偶者及び兄弟姉妹が相続人であるときは、配偶者の相続分は、四分の三とし、兄弟姉妹の相続分は、四分の一とする。
四  子、直系尊属又は兄弟姉妹が数人あるときは、各自の相続分は、相等しいものとする。ただし、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の二分の一とする。

出典:

law.e-gov.go.jp

民法
参照元:法務省(2016年1月、著者調べ)

遺留分の権利を持っている人

相続人となれる人が全員遺留分の権利を持っているわけではありません。そこで相続人の組み合わせによっては、遺留分の権利がある相続人と遺留分の権利のない相続人があり相続争いになってしまうこともあるようです。民法では遺留分のない相続人やその割合が定められています。

第千二十八条  兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合に相当する額を受ける。
一  直系尊属のみが相続人である場合 被相続人の財産の三分の一
二  前号に掲げる場合以外の場合 被相続人の財産の二分の一

出典:

law.e-gov.go.jp
相続人となれる人で遺留分が認められていないのは亡くなった人の兄弟姉妹(甥や姪も含む)です。したがって相続人が配偶者と兄弟姉妹という場合は配偶者には1/2の遺留分が認められますが、兄弟姉妹には認められていないためいさかいが生じてしまうこともあるようです。

また相続人が兄弟姉妹だけの場合は全く遺留分が認められていないため、固唾を飲む以外打つ手がないのです。遺言書に亡くなった人の愛人やその子に相続させるという内容だけではなく、相続人が配偶者と兄弟姉妹の場合でも「財産はすべて配偶者に相続させる」と書いてあったようなときは、なおのこと兄弟姉妹はあてにしていた財産が手に入らなくなるので争いが起きてしまうようです。



権利者

遺留分権利者

遺留分の権利を持っている相続人を遺留分権利者といいますが、通常の相続と同じように遺留分も代襲相続します。しかし亡くなった人の子が相続放棄をしてしまうと孫には相続する権利が移動しませんので遺留分の権利も移動しません。子が相続放棄すれば相続順2位の親が相続人となり遺留分の権利は親に移動することになります。(民法第1044条)

なお遺留分の権利を持っていても行使するかどうかは相続人の自由意志によりますので、財産を取り戻す「遺留分滅殺請求」は相手に請求しない限り遺言書は有効となります。ただし「遺留分滅殺請求」には時効があり、相続の開始及び減殺すべき事実があったことを知ったときから1年間とされ、もしその事実を知らなかったとしても10年で時効となってしまいます。(民法第1042条)

遺留分の割合

相続人の遺留分が侵害された場合、「遺留分滅殺請求」を相手に行使することにより取り戻すことのできる割合は以下のとおりです。

・相続人が配偶者のみ
財産のうち1/2を相手に請求することができ相手は財産の1/2を確保します。

・相続人は子のみ
財産のうち1/2を相手に請求することができ相手は財産の1/2を確保します。

・相続人が配偶者と子
財産のうち配偶者は1/4、子も1/4を相手に請求することができ相手は財産の1/2を確保します。

・相続人が配偶者と親
財産のうち配偶者は1/3、親は1/6を相手に請求することができ相手は財産の1/2を確保します。

・相続人が配偶者と兄弟姉妹
財産のうち配偶者だけが1/2を相手に請求することができますが、兄弟姉妹はゼロで相手は財産の1/2を確保します。

・相続人が親のみ
財産のうち1/3を相手に請求することができ相手は財産の2/3を確保します。

・相続人が兄弟姉妹のみ
財産を相手に請求することはせきませんので相手は100%財産を確保します。

遺留分の権利を失う人

遺留分の権利を持っている相続人は、相続の欠格や廃除に該当する場合は財産を相続することができませんので遺留分の権利も失うことになります。(民法第891条、民法第892、893条)また相続放棄した相続人も遺留分の権利はありません。また遺留分の権利を放棄することができ家庭裁判所から許可を受けた場合も遺留分の権利を失うことになります。(民法第1043条)

裁判所|遺留分放棄の許可
参照元:裁判所(2016年1月、著者調べ)

計算方法

基礎財産の計算

亡くなった人が遺した財産にはプラスの財産やマイナス財産があります。プラスの財産とは家や土地などの不動産や現金や預貯金、株券などの金融資産、高価な美術品や骨董的に価値がある物、貴金属や宝石など明らかに価値のある財産のことをいいます。

マイナスの財産とは住宅ローンや自動車のローン、クレジットカードやキャッシングローンなどの借金類、税金の未納分や滞納分など相続したくないような財産のことをいいます。また相続開始の1年以内に相続人以外に贈与した額、及び相続人への贈与(特別受益)も相続財産の先渡しとみなされ遺留分を計算する際の遺留分算定基礎財産として合計しなければなりません。

計算の例①:相続人が子どものみ

相続人は子ども2人とし、プラスの財産は8,000万円、生前贈与が3,000万円、マイナスの財産が1,000万円の場合子ども1人あたりの遺留分の額は以下の計算となります。

①遺留分算定基礎財産=プラスの財産8,000万円+生前贈与3,000万円-マイナスの財産1,000万円=1億円

②遺留分の総額=1億円x1/2=5,000万円

③子ども1人あたりの遺留分=5,000万円x1/2=2,500万円

計算の例②:相続人が配偶者と子ども

相続人は配偶者と子ども3人とし、プラスの財産は8,000万円、生前贈与が3,000万円、マイナスの財産が1,000万円の場合のそれぞれの遺留分を計算してみましょう。

①遺留分算定基礎財産=プラスの財産8,000万円+生前贈与3,000万円-マイナスの財産1,000万円=1億円

②遺留分の総額=1億円x1/2=5,000万円

③配偶者の遺留分=5,000万円x1/2=2,500万円

④子ども1人あたりの遺留分=2,500万円x1/3=約833万円

計算の例③:相続人が配偶者と親

相続人は配偶者と親とし、プラスの財産は8,000万円、生前贈与が3,000万円、マイナスの財産が1,000万円の場合のそれぞれの遺留分を計算してみましょう。

①遺留分算定基礎財産=プラスの財産8,000万円+生前贈与3,000万円-マイナスの財産1,000万円=1億円

②遺留分の総額=1億円x1/2=5,000万円

③配偶者の遺留分=5,000万円x2/3=約3,333万円

④親の遺留分=5,000万円x1/3=約1,666万円

計算の例④:相続人が親のみ

相続人親のみとし、プラスの財産は8,000万円、生前贈与が3,000万円、マイナスの財産が1,000万円の場合のそれぞれの遺留分を計算してみましょう。

①遺留分算定基礎財産=プラスの財産8,000万円+生前贈与3,000万円-マイナスの財産1,000万円=1億円

②親の遺留分=1億円x1/3=約3,333万円

どういうときに遺留分を請求するのか

今までの計算例でそれぞれの遺留分の額を求めました。ではどういう時に遺留分の請求をするのかですが財産の分割において遺留分の額を下回った場合に他の相続人に対し不足分を請求することになります。

計算の例①では子ども1人あたりの遺留分は2,500万円でしたが、遺言書によって相続される額が2,000万円のときに500万円が不足していることになります。その不足分を他の相続人に「遺留分滅殺請求」し不足分を取り戻すことができます。

また遺言書がなければ、法定相続分は1億円x1/2=5,000万円だったのですが、遺言書には他の親族や他人に全財産を相続すると書かれていれば法定相続分5,000万円が侵害されたことになります。その場合の救済策として最低限の相続分として2,500万円を相手に請求できるのです。



遺留分滅殺請求

請求方法

遺留分滅殺請求の方法は基本的に決まったやり方というのはありません。自分の遺留分を侵害している他の相続人や相続人でもないのに遺産を譲り受けた人に請求します。直接相手に請求しても良いし、話がもつれれば裁判所に調停を依頼する、または裁判を起こすといった方法が多いようです。

直接交渉する

直接相手と交渉するためには自分の遺留分が侵害されているという意思を伝えなければなりません。意思の伝え方は相手に会って話をするのもひとつの方法ですし電話をかける、手紙を書くなど相手が遺留分を侵害していることを認識できれば相手はもらい過ぎた財産を返還しなければなりません。

しかし口頭で伝える方法や手紙を書く方法では、後で何かトラブルが発生した場合に証拠がないため対抗する手段がありませんので内容証明郵便で送るのが良いでしょう。

内容証明郵便を送って相手が返還する気持ちが起きれば、早速合意文書を作成し証拠を残すのが最適な方法といえます。

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                    遺留分減殺請求書

私は父A男がすべての財産を長男である貴殿Y男に相続させる旨の遺言書を残したことを知りましたが、私には遺留分が相続財産の8分の1があり、貴殿は私の遺留分を侵害していますので、私は貴殿にたいし遺留分減殺請求をいたします。

平成◎年○月○日
東京都中央区○町1丁目1番1号
甲山X男  印 

埼玉県さいたま市○町2丁目2番地2号
甲山Y男 殿

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出典:

iryubunsodan.html.xdomain.jp

裁判所に調停を依頼する

相手に内容証明郵便で遺留分減殺請求書を送っても無視し、返還する意思が見られないときは遺留分減殺請求の調停を裁判所へ申立てることになります。調停を依頼された裁判所は申立人と相手方の間に入り調停を行います。

その過程でお互いの妥協点を探り話がまとまれば調停調書が作成され、申立人は相手が返還に応じない場合強制執行し財産を差し押さえることができるようになります。

かかる費用は印紙代1,200円と切手代数百円です。必要な書類は以下のとおりでそんなに面倒なことでもなさそうです。

・遺留分請求調停申立書
・相続財産の目録
・亡くなった人の戸籍謄本
・相続人の戸籍謄本
・遺言書のコピー

また調停の流れは以下のようになります。

①家庭裁判所へ行って申立てをする。
②裁判所は申立人と相手に通知を送り呼び出します。
③裁判所が選任した調停員が申立人と相手の話を聞き妥協点を探ります。
④話し合いがまとまれば調停調書を作成します。

まとまらなければ次回に持ち越しとなり、それでもダメな場合は裁判へと進むことになります。管轄する裁判所は請求する金額によって分けられ請求金額が140万円以下のときは簡易裁判所、140万円を超えるときは地方裁判所へ提起するようになります。

裁判所|遺留分減殺による物件返還請求調停
参照元:裁判所(2016年1月、著者調べ)

弁護士に依頼する

裁判所を通さず自分で相手と交渉するには専門的な知識が必要になりますので、もしも交渉に不安を感じるのであれば弁護士や司法書士に依頼するという方法もあります。一旦依頼してしまえば相手との交渉やお金のやり取りはすべて弁護士や司法書士が代理人となりますので、相手と顔を合わせることもなく話がスムーズに進むことが期待できます。

相手も弁護士や司法書士となると、いい加減なことはいえないと真摯な態度になる場合が多く早期に解決へと進むといえるでしょう。最悪裁判所へ調停となった場合も、申立人の代理人となって裁判所へ行くことができますので仕事を休むなど時間を作ることも必要なくなります。

費用は最初の話し合いや成功報酬などを含めると50万円程度はかかるようです。費用が都合できない場合は法テラスの弁護士費用立替制度を利用することも可能です。その立替金は分割で返済することもできますので電話して訊いてみることをお勧めします。

法テラスをご利用中の方へ  法テラス|法律を知る  相談窓口を知る  道しるべ
参照元:法テラス(2016年1月、著者調べ)

まとめ

いかがでしたでしょうか。遺留分の請求は決して恥ずかしいことではなく相続人の権利を守るための正当な方法といえます。残された家族を守るためにも権利を行使するのは相続人の義務といえるでしょう。