相続税の時効とは?知っておきたい法律と税金の知識

「時効が完成すると借りていた金がチャラになる」「あの時の借金はもう時効でしょ?」なんて言葉を聞いたことはないでしょうか。そして、その「借金がチャラ」の部分に、お?と思ったことはないでしょうか。時の流れで払う義務のあるお金がチャラになるのなら、税金もそうなのでしょうか?相続税と時効について解説します。



相続税と時効の知識

相続税とは、誰かが亡くなった時に発生する相続により財産を受け取ると課税される税金です。日本は給料や贈与も含め財産を受け取ると、基本的にその財産に対し課税される国です。相続は人の死により財産を受け継ぐことですから、懐に入る分の財産に対し課税されるというわけです。

課税はされますが、この相続税、他の税金と同じように、一定期間で支払いをしなくて良くなります。これを時効といいます。相続税の基礎知識と、基礎知識の中でも忘れてはいけない重要ポイントである時効について説明します。

No.4102 相続税がかかる場合|相続税|国税庁
参照元:国税庁(2016年1月、著者調べ)



相続税とは?

相続税とは、相続財産に対して課税される税金です。

しかし、相続で財産を受け取った人全てが相続税を払わなければならないわけではありません。現日本においては、相続時に相続税を払う人の方が少ない状況です。相続税は控除が他の税金より大きく設定されていることが理由の一つです。

控除とは、税金の算定の元になる金額(財産額)から一定額を引くことができることを指します。相続した財産から、自分の使える控除を引き、その上で相続財産が残っていれば相続税の課税対象になります。

色々な控除で計算の元になる金額から一定額を引けるわけですから、計算結果(税金)がその分小さくなりますし、控除の結果が0やマイナスになれば、元の金額自体(相続財産)が存在しないに等しくなるわけですから、相続税自体が課税されません。

No.4152 相続税の計算|贈与税|国税庁
参照元:国税庁(2016年1月、著者調べ)

No.4158 配偶者の税額の軽減|贈与税|国税庁
参照元:国税庁(2016年1月、著者調べ) 控除は相続税の算定の際に条件に合っていれば使うことができます。相続税には控除制度が豊富にあり、条件に当てはまればどんどん控除できるのです。ですから、控除に控除を重ねて相続財産が残る場合は、かなりの財産を相続した場合です。ほとんどの相続はここまでたくさん相続財産がないので、現日本では、相続税が課税されるケースの方が少ないというわけです。

課税される場合

また、他にも、相続財産はプラスだけでなく、マイナスも含まれることにより、相続税が課税されるケースが一段と少なくなります。不動産や預金、有価証券はプラスの財産ですが、借金や義務はマイナスの財産です。このマイナスの財産も相続の対象になります。

マイナスの財産はプラスの財産から引くことができます。例えば、相続財産が1,000万円の預金で、借金というマイナスの財産が500万円あったとします。この場合は、1,000万円から500万円を引き、残額は500万円。この500万円をさらに相続税特有の控除によって引くと、多くの場合はそれだけで相続税算定のベースになる相続財産額はマイナスになるでしょう。このように、相続税においては控除だけでなく、マイナス財産を相続した場合も引くことができるので、ますます相続税が課税されるケースは少なくなるわけです。

しかし、それでも、日本国内では相続税を支払っている人は実際にいます。ニュースでもたまに相続税逃れが報道されますよね。相続税が課税される場合は、課税されても支払わなくて良い「時効」を頭に入れる必要があります。

時効とは?

「時効」と言われると、どんな意味を想像するでしょうか?

子供の頃に友達に10円を借りて、三十年後の同窓会で「そう言えば、あの時の10円、返してもらってないよな?」「いや、あれはもう時効だろ?」なんていうやり取りでしょうか?それとも、殺人事件の犯人が逃げ回ることでしょうか?確かにどちらも時効に関係があることに違いありません。しかし、時効と言われて思い浮かぶ意味は「借金がチャラ」のような、抽象的かつ大まかな意味ではないでしょうか。

時効。

その法律上の意味を、相続税の時効を理解する前段階として簡単に理解してしまいましょう。

時効の具体例

時効とは、時の経過により法律の効果が発生すること、または法律の効果が消失することをいいます。借金に対し「時効だろ!」と使う場合を考えてみると、法律の効果がどろんと消えていることがよく分かると思います。実は、一言に時効と言っても、時効は色々あるのです。権利や物ごとにそれぞれ期間が定められています。

(二年の短期消滅時効)第百七十二条
弁護士、弁護士法人又は公証人の職務に関する債権は、その原因となった事件が終了した時から二年間行使しないときは、消滅する。
2  前項の規定にかかわらず、同項の事件中の各事項が終了した時から五年を経過したときは、同項の期間内であっても、その事項に関する債権は、消滅する。

第百七十三条
次に掲げる債権は、二年間行使しないときは、消滅する。
一  生産者、卸売商人又は小売商人が売却した産物又は商品の代価に係る債権
二  自己の技能を用い、注文を受けて、物を製作し又は自己の仕事場で他人のために仕事をすることを業とする者の仕事に関する債権
三  学芸又は技能の教育を行う者が生徒の教育、衣食又は寄宿の代価について有する債権

(一年の短期消滅時効)第百七十四条
次に掲げる債権は、一年間行使しないときは、消滅する。
一  月又はこれより短い時期によって定めた使用人の給料に係る債権
二  自己の労力の提供又は演芸を業とする者の報酬又はその供給した物の代価に係る債権
三  運送賃に係る債権
四  旅館、料理店、飲食店、貸席又は娯楽場の宿泊料、飲食料、席料、入場料、消費物の代価又は立替金に係る債権
五  動産の損料に係る債権

出典:

law.e-gov.go.jp

(所有権の取得時効)第百六十二条
二十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得する。
2  十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その占有の開始の時に、善意であり、かつ、過失がなかったときは、その所有権を取得する。

(所有権以外の財産権の取得時効)第百六十三条
所有権以外の財産権を、自己のためにする意思をもって、平穏に、かつ、公然と行使する者は、前条の区別に従い二十年又は十年を経過した後、その権利を取得する。

出典:

law.e-gov.go.jp
借金の場合、法律で定められた時効期間が経過することにより、借り手は借りたお金を返さなくて済みます。「もう時効だろ!」と言えるわけです。対し貸し手は、「金返せ!」と主張しても、「もう時効だろ。返す必要なし!」と言われてしまうわけです。時効が完成する前にお金を返して欲しいと主張していたなら、裁判所に訴えて判決をもらった上で強制執行することもできました。しかし、時の経過と共に時効が完成し、借金がどろんと消えてしまったのです。これがよくある時効のケースではないかと思います。

時効は完成のために一手間必要

時効は時間の経過と共に時効期間を満了しますが、期間を満了しただけでは完成しません。完成させるためには一手間必要になります。その一手間とは「援用」と呼ばれる行為ないしは主張です。時効期間が経過したら裁判所に駆け込んで「時効が完成しました!」と主張してくださいね。この主張によって時効が完成しますということです。

前項の例で説明すると、借金の時効期間が経過したら、借り手側が裁判所に駆け込んで「時効期間が過ぎました。もうお金を返さなくていいですよね!」と援用を行います。晴れて、この主張により時効が完成するというわけです。

なぜこんな制度にしているのか?期間満了だけで自動的に時効が完成すれば楽じゃないか?と思われるでしょう。その通り、楽なんです。しかし、それを良しとしない人も世の中にはいるということです。

(時効の援用)第百四十五条
時効は、当事者が援用しなければ、裁判所がこれによって裁判をすることができない。

出典:

law.e-gov.go.jp

援用の意義

時効期間の満了で自動的に時効が完成したとします。AはBから1,000万円を借り、まだ一銭も返していません。しかし、借りてから二十年経っても、三十年経っても、恩を忘れず、いつか耳を揃えて返したいと思っていました。しかし、時効期間の経過で自動的に時効完成と決めてしまうと、Aの気持ちに反して時効が完成してしまいます。借金は本来返さなければならないものですから、時間の経過と共に消してしまおうという考え方はちょっとばかり卑怯でもあるのです。時効を完成させるかどうかはAとBの当事者間が自由に選択できた方がいいのではないでしょうか。

土地のことでも、よく時効が問題になります。善意の場合は10年、悪意の場合は20年で土地の時効です。隣に家の人が自分の家の土地を占拠している時は、隣の家の人が期間経過の上で援用をすれば隣の家の人のものになるということです。法律用語で、「善意」は「知らずにやっている」を意味します。「悪意」は「知っているのにやっている」を意味します。

例えば隣の家の人が善意で自分の家の土地の一部を占拠している場合、10年経過をして援用をすれば時効は完成し、その部分の土地は隣の家のものになります。しかし、10年経過して自動的にその土地が隣の家の人のものになってしまえば、それはそれで隣の家の人も困るのではないでしょうか。土地の境界を間違って覚えていたために一部を占拠してしまっただけで、決して土地を奪う腹積もりなんてなかった、正しい事を知っていればすぐにお返ししました、という人だっているのではないでしょうか。

援用はなぜ必要?

時効は完成と共に権利が消失したり、権利を得たり、法律の効果が発生したり、法律の効果が消失したりすることです。しかし、完成してしまうと、本来は支払うことが道徳的に正しい借金が消えてしまったり、きちんと売買などの手続きを踏んで手に入れるべき土地がタダで転がり込んできたりと、どうしても棚からぼた餅、ちょっと卑怯、という印象が拭えません。

ですから、援用により完成させ借金を消すか、土地を手に入れるかは、当人たちに判断を任せるというスタンスを法律はとっています。自分の真偽に反するから援用はしない!と考えるなら時効を完成させないこともできますし、お金を借りる時に口車に乗せられた、許せん!と考えて援用をして時効を完成させることも自由です。

しかし、そもそも、どうしても卑怯という印象が拭えないというわりにどうして法律はこんな制度を定めているのでしょう。それにはとても深い理由があるのです。

なぜ時効があるの?

援用をして時効を完成させるかどうかは本人たちの自由です。しかし、そこに第三者が関わればどうでしょう。

例えばAはBに1,000万円を借りている。CはBから、1,000万円が帰ってきたら、あなたへの未払い金200万円を早々に支払おうと思っていると言われました。しかし、AとBは返すのだか返さないのだか、時効を完成させるのだかさせないのだか、宙ぶらりんな状態で借金を長い期間放置しています。さあ、どうでしょう。あなたがCだったら「払うの、払わないの?」「あやふやな状態を続けないで早く決着をつけて!」と思わないでしょうか?

時効はこのような時のために作られた制度だと言われています。長い間、権利を放置すると、その権利に関わる第三者まで迷惑します。土地の問題だって、土地を売って欲しいと考える人が売買をもちかけたとしても、その土地はAのものなのかBのものなのかはっきりしないとCが困ります。あちこちでこのような宙ぶらりん状態が起きると、国の経済の損失にも繋がります。

時効は完成により権利が消えたり、権利を得たりします。本来は返さなければならないものが消失し、自分のものだったはずのものがタダで他人のものになってしまうという少々卑怯な面もあります。しかし、長い間宙ぶらりんの曖昧な状況にしておくと当事者以外の人が迷惑を被ることがあり、国の経済面にもマイナスであるため、一定期間の経過と援用により、どちらのものか、消えるか消えないのか、白黒はっきりさせるという大きな意義があります。そのために時効という制度が作られたと言われています。

時効を阻止する制度もある

このように、時効期間を満了し援用をすれば時効が完成します。時効が完成すると払わなければいけないものを払わなくてよくなり、もともと人のものだった物をタダで自分のものにできる、つまり権利を得たり失ったり、法律効果が発生したり消えたりするわけです。しかし、これは、物の持ち主や権利の持ち主から見ればたまったものではありません。そもそも、時効は第三者のために、放置状態の物や権利の持ち主をはっきりさせ、経済活動や財産の安定化に繋げるという意義もあります。

権利の持ち主が「自分の物」「自分の権利」ときちんと主張するなら、時効を考える必要性はあまりないと言えます。きちんと主張し守ろうとするなら、放置状態ではないからです。しかし、きちんと守ろうと頑張っているのに時効期間は刻々と過ぎて行く。しかも、お金を借りた本人は「返す金がない」とあっけらかんとしている。そうこうしているうちに十年経過して、督促しても督促しても払われずに借金がチャラでは、貸した人が気の毒ではないでしょうか。

時効には「中断」という制度があります。

(時効の中断事由)第百四十七条
時効は、次に掲げる事由によって中断する。
一  請求
二  差押え、仮差押え又は仮処分
三  承認

出典:

law.e-gov.go.jp
このような行為をしたら、時効は中断します。中断の法的な意味は、「振り出しに戻る」です。借金が10年経過間際の9年10カ月、時効を完成させないようにこういった行為をした場合には、時効は9年10カ月のところで停止するのではなく、振り出しに戻って期間が数え直しになります。

相続税の時効を考える上でも非常に大切な知識ですから、時効は中断することができ、中断されると振出しに戻って数え直しになる、と覚えておきましょう。

以上の知識を踏まえ、相続税の時効について考えます。



相続税の時効

時効の期間は権利や物ごとに決められています。前項目に出てきた借金は、借金の性質によって期間は様々です。飲み屋のツケなどは非常に短い期間で時効によって消滅します。土地は善意と悪意で時効期間が異なります。善意は10年、悪意は20年でした。

相続税も時効の期間が定められています。

(国税の徴収権の消滅時効)第七十二条
国税の徴収を目的とする国の権利(以下この節において「国税の徴収権」という。)は、その国税の法定納期限(第七十条第三項の規定による更正若しくは賦課決定、前条第一項第一号の規定による更正決定等又は同項第三号の規定による更正若しくは賦課決定により納付すべきものについては、これらの規定に規定する更正又は裁決等があつた日とし、還付請求申告書に係る還付金の額に相当する税額が過大であることにより納付すべきもの及び国税の滞納処分費については、これらにつき徴収権を行使することができる日とし、過怠税については、その納税義務の成立の日とする。次条第三項において同じ。)から五年間行使しないことによつて、時効により消滅する。
2  国税の徴収権の時効については、その援用を要せず、また、その利益を放棄することができないものとする。
3  国税の徴収権の時効については、この節に別段の定めがあるものを除き、民法 の規定を準用する。

出典:

law.e-gov.go.jp
このように、基本的に時効は5年です。ただし悪意の場合は7年になります。

相続税の善意とは、相続税が発生しているとは知らなかったなどの場合を意味します。相続税の悪意は、相続税を払わなければいけないことを知っていながら払わなかった場合や、時効が来れば払わなくてラッキーと考えていて払わなかった場合などを指します。

善意のケースですと、うっかり計算を間違えて相続税が発生しないと思ったという過失の場合も有り得ますから、決して悪質とは言えません。計算ミスだったら誰でもしてしまう可能性があるからです。しかし悪意の場合、明らかに相続税を踏み倒そうとしていますから、悪質度は高いものです。悪質度が高いですから、悪意の時は時効完成のためにはより長い期間の経過を待たなければいけないのです。

相続税の時効と普通の時効の差異

普通の時効の場合は援用が基本です。しかし、相続税を始めとした国税の場合は、「援用は不要」という特徴があります。条文にも記載があります。普通時効(民法の時効)とは多少異なる部分があるということです。

ただし、こちらも条文に記載がありますが、時効の基本は民法ですから、「民法の規定を準用する」、つまり、特別記載がない部分に関しては民法に従いますよということです。だからこそ、税金の時効を理解するには民法の知識が必須なのです。

第73条関係 時効の中断および停止|国税通則法基本通達(徴収部関係)の制定について|国税庁
参照元:国税庁(2016年1月、著者調べ)

時効が完成したら?

時効が完成したら相続税を払う必要はありません。時効が完成すると消滅してしまうからです。

もし、相続税自体が時効で払う必要がなくなっているのにうっかり払ってしまったら、過誤納として還付の対象になると解釈されています。相続税から派生したもの(利息や延滞税)も同様です。

第56条関係 還付|国税通則法基本通達(徴収部関係)の制定について|国税庁
参照元:国税庁(2016年1月、著者調べ)

相続税の時効完成は可能なのか?

相続税には時効の期間が定められており、時効が完成すれば支払いをする必要はありません。しかし、実際に相続税を時効の完成により払わなくて済むということが有り得るのでしょうか?決まりとしてはあるけれど、相続税の時効完成による支払い不要という事態は現実的に有り得るのか、ということです。

現実はそう甘くないようです。つまり、ほとんど有り得ない。いいえ、まず有り得ないようです。

相続税は国税ですから管轄は税務署になります。税務署は相続税の時効完成前に必ずといっていいほど中断の手を打ってきます。税務署はそれも仕事の一つですし、税金の取り立てを逃してしまえば国の税収が減ります。国の税収が減れば国民へのサービスが低下し、全国民の不利益になるわけですから、取り立てずに放置するという怠慢は許されないのです。

中断の手を打てば、そこで相続税の時効は振り出しに戻ります。相続税を納める側が時効は完成したと訴えて裁判所で戦ったとしても、税金関係の判決は取り立てる側、つまり国や自治体に有利な判決が出ることがほとんどであると言われています。もし裁判所がほいほい認めてしまえば、同じ手段で税金逃れをしようとする輩が現れるかもしれないので仕方がないのかもしれません。時効が完成したと主張して税務署と争っても、勝ち目はとても薄いのです。

まとめ

相続税の時効を、時効の基礎知識と共に説明しました。

権利や物にはそれぞれ時効が決められており、相続税の時効は基本的に5年となっています。時効が完成すれば相続税の支払いを免れますが、実際に時効によって支払いを免れることは非常に難しいと言えます。税務署は中断しようと手を打ちますし、裁判で争っても、そもそも税金は支払うのが当然のものですから、裁判所は取り立てる側である国や自治体の味方をする可能性が高いと言われています。実際、税金関係で税務署と争って個人が負けた判例は、ちょっと調べればあちことにごろごろと転がっています。

相続税の支払いに困っている場合は時効に頼ることは現実的ではありません。物納や延納といった制度がありますから、税務署に誠実に事情を話し、他の取り得る手段を選択した方が良いのではないでしょうか。

No.4211 相続税の延納|相続税|国税庁
参照元:国税庁(2016年1月、著者調べ)

No.4214 相続税の物納|相続税|国税庁
参照元:国税庁(2016年1月、著者調べ)