配偶者の扶養義務は2つ!夫婦になると義務や手続きが増える?

婚姻届を提出すればあっさり結婚の手続きが終了しますが、簡単にできてしまうと言う現実に対し、結婚後に発生する義務は結婚前の比ではありません。結婚により発生する責任や義務を一通り説明した上で、配偶者の扶養義務を分かりやすく解説します。



結婚の手続きをすると…

結婚しようと男女が合意したら、役所から婚姻届をもらって記載し提出します。すると、すぐに戸籍への記載が行われ、早ければ数分で婚姻届受理、晴れて夫婦になりましたおめでとうございます!となります。役所では戸籍関係手続だけでなく、他にも税金や国民健康保険、社会保障制度や色々な登録事務などを行っています。婚姻届はそんな各種手続きの中でもかなり簡単な手続きではないでしょうか。

婚姻届の提出には他に特別な書類は必要ありません。また、押印は百均で購入できる印鑑で十分ですし、結婚する男女の他に証人の記載が必要ですが、証人は赤の他人でもまったく構わないことになっています。つまり、結婚したいカップルが役所に行って婚姻届をもらい、もらってすぐに記載をする。そして近くを通りかかったおじさんやおばさんに結婚の証人として記載をしてもらえれば、書類をもらってから十分そこそこで夫婦になることもできてしまいます。

一応、婚姻届を提出し夫婦になるには、婚姻意思が必要だと言われています。婚姻意思とは、夫婦になる男女が偽装ではなく、これから心も体も夫婦として一心同体家庭生活を営んで行くのだという意思であると言われています。婚姻届の提出に際しこの婚姻意思を有していない場合には、その婚姻は無効であると解釈されていますが、内心など本人にしか分かりません。現状として、勝手に提出された婚姻届も、その内心が提出者の顔面にでかでかと書いているわけではなく判別できませんから、うっかり受理されてしまうということが起きているようです。

「婚姻意思」が必要だと言われてはいますが、実際は内心を判別できないことから、婚姻届はあっさり受理されています。つまり、とても簡単な紙一枚の手続きなんです。

しかし、ぺらっとした紙一枚の手続きであるのに、結婚により発生する義務や責任はとても重いものです。

結婚後の責任と義務

ぺらぺらの紙一枚で手続きができてしまうわりに、成立してしまえば非常に重い結婚の責任と義務にはどんなものがあるのでしょう。

まず、夫婦になると、日常家事債務を連帯して引き受けなければいけません。日常家事債務とは、生活する上で当然の債務のことです。夫婦の片方が生活に必要なシャンプーを買って代金未払いの場合は、それが例え夫のした買い物であったとしても妻も請求されれば引き受けなければいけません。妻が灯油の宅配を頼んで妻不在の時に宅配がやって来て夫が代金を請求されれば、夫は「それは妻が頼んだものだから俺は関係ない」とは言えません。生活に必要な債務は、不動産などの明らかに日常の買い物ではないだろうものの債務は例外として、基本的に夫婦共同で責任を取らなければいけません。

また、夫婦の片方が浮気をしたら、もう片方は離婚の理由にすることもできますし、慰謝料を請求することもできます。恋人同士であれば結婚を前提にし結納を交わした仲や恋人の片方が既婚者でもなければ、そこまで恋愛の自由を束縛されたりしません。なぜなら、誰と恋愛関係になろうが、誰に愛情を抱こうが、内心や行動は自由なものであるからです。

しかし、結婚したことで、他の異性とデートしたり、口説いたり、肉体関係を持ったり、そういったことは厳しく制限されます。できはするのですが、浮気をした場合は相応の覚悟が必要です。なぜなら、婚姻届を提出する時にきちんと婚姻意思(夫婦として生活を営んでゆく意思)を持って提出したはずだからです。

(日常の家事に関する債務の連帯責任)第七百六十一条
夫婦の一方が日常の家事に関して第三者と法律行為をしたときは、他の一方は、これによって生じた債務について、連帯してその責任を負う。ただし、第三者に対し責任を負わない旨を予告した場合は、この限りでない。

出典:

law.e-gov.go.jp

(裁判上の離婚)第七百七十条
夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。
一  配偶者に不貞な行為があったとき。

出典:

law.e-gov.go.jp

裁判所|慰謝料請求調停
参照元:裁判所(2016年1月、著者調べ)

未成年者も責任と義務?

また、未成年が結婚することにより生じる責任と義務もあります。女性は十六歳、男性は十八歳で結婚することができます。

本来、未成年は法的な行為は親に代理してもらうことになるのですが、結婚しているのに夫婦の色々な手続きを自分の両親に代理してもらうということもおかしな話です。ですから、未成年は結婚したら成年擬制により、法的な行為が可能になります(完全に、ではありませんが)。結婚したんだからほぼ成人と見なしていいよね?ということで、本来は未成年にはないような重い責任や義務が発生します。

(婚姻による成年擬制)第七百五十三条
未成年者が婚姻をしたときは、これによって成年に達したものとみなす。

出典:

law.e-gov.go.jp

配偶者の扶養義務の発生

他にも夫婦の間に発生する義務と責任があります。紙一枚で簡単に手続きできてしまうのにここまで義務と責任が発生してしまうのか?と考えると、日本における結婚がどれだけ法律に守られ、責任あるものかがよく分かるというものです。

結婚によって発生するもう一つの責任であり、義務であるものを「配偶者の扶養義務」といいます。扶養義務というと民法に定められる親族や血族間で生活を助け合う扶養義務が有名ですが、夫婦の扶養義務は何か違うのでしょうか?



配偶者の扶養義務は2つ

配偶者の扶養義務は2つあります。一つはまさに法律で定められた生活を守るための義務であり、もう一つは手続き的な義務になります。民法に定められた代表的な扶養義務も織り交ぜて、夫婦特有の扶養義務を解説したいと思います。まずは、夫婦になることによって色々な義務や責任が生まれ、その中には夫婦特有の扶養義務というものが2つあるのだということを押さえてください。

配偶者の扶養義務とは?

「扶養義務」とは、言葉通り、養う義務、援助する義務を指します。通常、「扶養義務」と言えば、民法に規定された親族や血族間の特定の間柄によって発生する扶養義務を指すことでしょう。しかし、夫婦の扶養義務といえば、民法の扶養義務とは似て非なるものです。夫婦の扶養義務は文字通りの「扶養する、協力して生活する義務」と「手続き的な扶養義務」の2つに別れます。夫婦特有の扶養義務を説明する前に、まずは一般的な扶養義務を簡単に説明しましょう。

一般的な扶養義務を頭に入れていただいて、その上で夫婦間に発生する扶養義務と読み比べてみてください。キーポイントは、「結婚は紙一枚で成立する簡単手続きなのに、成立すると、夫婦の責任や義務は重い!手続きも増える!」です。

民法の扶養義務

(扶養義務者)第八百七十七条
直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある。
2  家庭裁判所は、特別の事情があるときは、前項に規定する場合のほか、三親等内の親族間においても扶養の義務を負わせることができる。
3  前項の規定による審判があった後事情に変更を生じたときは、家庭裁判所は、その審判を取り消すことができる。

出典:

law.e-gov.go.jp
民法877条に定められた扶養義務は、「扶養義務」と言われて真っ先に思い浮かべる有名なものです。別に結婚していなくても、誰かの子供、誰かの孫、誰かの兄弟姉妹として生まれた時点で、一定の親族や血縁に対し義務と責任が生まれます。

日本は生活に窮した場合は憲法25条に則って創設された生活保護の出番になるのですが、国の懐に限界があること、また、税金はもともと赤の他人のお金とう性質も強いことから、第一に親族や血縁が支援するべきではないかという考え方があります。この民法877条の扶養義務は、一定範囲の親族や血縁が生活に困っていたら助けなさい!という義務を定めたものです。

第二十五条
すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
○2  国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。

出典:

law.e-gov.go.jp
望んでもいないのに、この世に日本人として誕生した瞬間に背負わなければならない義務と責任、それが扶養義務です。ただ、扶養義務は義務と責任を押しつけられるだけでなく、あなたに対しても一定の親族と血縁者は義務と責任を負います。あなたが扶養義務を負うと同時に、親族や血縁者も扶養義務を負うわけです。

扶養義務の範囲内の者から「生活が苦しくて……」と裁判所に申し立てがあった場合や、生活保護の申請があった場合は、その申し立てを行った者の兄弟姉妹や父母が支援してあげてくださいと言われることがある他、姪や甥、叔父や叔母といった三親等の関係まで扶養の義務が生じることがあります。

この民法877条が世に言う基本的な扶養義務になります。配偶者の扶養義務にも生活を支援するという内容のものがありますが、大きな違いは、民法877条の扶養義務は基本的に日本という国に日本人として生まれたら生じてしまうことに対し、配偶者の扶養義務は同じ扶養義務という名前でありながら、婚姻届が受理され、夫婦となって初めて生じることです。

生活保護制度 |厚生労働省
参照元:厚生労働省(2016年1月、著者調べ)

配偶者の2種類の扶養義務とは?

最も一般的な扶養義務を知った上で、今度は配偶者の扶養義務を確認しましょう。

配偶者の扶養義務は、大きく分けて二つの種類があります。一つは、民法上の扶養義務に似た、夫婦間の援助や協力を内容としたもの、そしてもう一つが手続き的な意味での扶養義務です。同じ扶養義務という言葉ではありますが、どんなシーンで使われるかによって意味が大きく変わります。例えば会社で「扶養」と言われた場合は、手続き的な意味での配偶者の扶養を指します。対し、別居中に裁判所手続きの中で「扶養」という言葉がでてきた場合は、夫婦間の援助や生活支援という意味の扶養を指す場合が多いかと思います。

2種類の扶養義務を、それぞれ解説します。まったく同じ言葉ですが、意味には違いがあります。それぞれのシーンを想像しながら読んでいただければ理解しやすいと思います。



1、生活保持義務

民法には、夫婦は互いに助け合って生活しなさいと定められています。そういった意味では877条の扶養義務に似ていますが、「夫婦は」という文言が付いている時点で全ての人が親族や家族に対して負う責任であり義務でもある一般的な扶養義務とは異なっています。なぜなら、夫婦間のことだからです。

配偶者の扶養義務を「生活保持義務」といいます。

婚姻届を出したからには、「俺が稼いだ金だから俺のものだ」という言い分は通用しません。奥さんが専業主婦の場合でも「自分の生活費は自分で稼げ」という言い分もいけません。夫婦は協力し合って生活しなければいけません。協力し合ってというのは表面上の話だけでなく、家計においても同様です。

夫婦は家計においても協力し、夫婦が同じ生活水準で生活できるようにしなければいけません。これを生活保持義務といいます。ですから、旦那さんが「俺の稼いだ金だ」と、奥さんの生活費は出したくないと主張することはできないのです。夫婦共に同じくらいの水準で生活できるように協力し合う義務があります。

生活保持義務とは -意味/解説/説明 | 弁護士ドットコムで法律用語をわかりやすく
参照元:弁護士ドットコム(2016年1月、著者調べ)

別居の時は?

配偶者の扶養義務は別居中もあります。別居していても配偶者の生活を援助し、同じくらいの生活水準に保つ義務があります。ですから、旦那さんは別居している奥さんに水道代やガス代、食費などの基本的な生活費を渡す必要があります。奥さんが働いていて専業主夫の旦那さんが別居している場合もまったく同じ義務が生じます。紙一枚で手続きできる結婚ですが、いかに簡単な手続きであれ、手続きを済ませて夫婦になったからには、家が離れようが重い責任と義務が課せられることになります。

もし別居中に片方が困窮することがありもう片方が生活費を支援しない場合や、同居していても家庭に生活費を入れない場合は、裁判所に婚姻費用(婚姻中の生活費)の請求を申し立てることができます。

裁判所|婚姻費用の分担請求調停
参照元:裁判所(2016年1月、著者調べ)

2、手続き上の扶養義務

履歴書や社会保険の加入届といった会社などの届け出る書類には、配偶者の扶養義務という項目が見られます。配偶者の扶養義務の二つの目の意味は、こういった届出や書類によく登場する欄や手続きをする上での意味合いです。こちらは民法で定められた扶養義務ではありません。ただ単に手続き上の意味です。

手続き上の配偶者の扶養義務

会社で共済組合や年金に加入する際に、配偶者が扶養家族に該当するかどうかは大きな問題です。

奥さんが旦那さんの扶養家族として共済や年金の手続きをする場合は、奥さんの年収が大きく関わってきます。世間でよく「奥さんの収入が一定額を越えちゃいけないって言うけど?」という話を聞かなかったでしょうか。お金はあるならあるだけ良いでしょうし、奥さんも旦那さんも一定額以上の収入があるならそれに越したことはないはずです。なぜなら、その分、生活費という面で生活が安定するからです。

しかし、「奥さんは幾らを越えて収入があればダメ」という話が有名なのは、ひとえに、共済組合や年金の手続きが関係するからです。収入の多い配偶者は扶養ではなく、むしろ自活に近いですよね。一定より低い年収だからこそ同じ水準の保障を用意しなければならないという意味でも、年金などの手続きで配偶者の収入は重要視されます。

配偶者の扶養義務の2つ目の意味は、このような手続き的な意味でのものになります。

従業員が家族を扶養にするときの手続き|日本年金機構
参照元:日本年金機構(2016年1月、著者調べ)

まとめ

扶養義務というと一般的なのは民法877条の親族や血縁間で助け合いなさいという扶養義務ですが、自分たちで選んで夫婦になった男女には夫婦間に特有な扶養義務が課されます。婚姻届という紙一枚の簡単な手続きであれ、誰に強制されるわけでもない結婚という選択肢を選んだ二人だからこそ、特別な義務が課されるとも言えます。夫婦になるとはそれだけ責任も義務も、手続きも増えるということです。

配偶者の扶養義務の意味は2つです。

一つは「生活保持義務」で、もう一つは「手続き」です。生活保持義務は877条の扶養義務に似ているような気がしますが、夫婦で生活を協力して頑張りなさいという意味では、日本人に生まれればそれだけで課される877条とは似て非なるものだと思います。

配偶者の扶養義務は2つ。一般的な扶養義務は民法877条。同じ「扶養」という言葉でも意味が異なりますので、使われるシーンによって判別することが重要です。