遺産相続における遺留分の割合は?兄弟にはない「時効」に注意

一定の相続人に、一定の割合で認められる遺留分。遺留分減殺請求の権利を有する人や、割合の計算の仕方、注意点などをまとめました。



遺産相続における遺留分

遺産相続における遺留分とは

遺産相続に関する問題は、時に家族や兄弟の間に亀裂を生じさせます。身内が亡くなったという時に、揉め事などは避けたいものですが、ただ知らなかったがゆえに泣き寝入りすることにもなり得るのが、法律というもの。ここでは、遺留分というものについて、解説をしていきます。

まず、相続については、法定相続主義といって、相続人に該当する人やその割合を法律で定めています。ただし、これは亡くなった人(被相続人)が自己の意思によって修正することができ、生前贈与や遺言によって、自己の財産を自由に処分することができます。法律で相続人と定められていない赤の他人に、全財産を譲るという遺言もできるわけです。

しかし、そこで考慮する必要があるのは、例えば被相続人名義の家に、相続人である子どもたちが住んでいた場合。赤の他人に「あなたのお父さんはこの家を私に譲ると言い遺したので、出ていって下さい」ということが問答無用でまかり通ってしまっては、子どもたちの生活が保障されませんよね。そこで民法では、一定の相続人に対し、被相続人の財産のうちの一定の割合を、遺留分として最低限確保しています。

日本弁護士連合会│Japan Federation of Bar Associations:ひまわりお悩み110番 (法律相談の予約)
参照元:日本弁護士連合会(2015年12月、著者調べ)

遺留分を有する人

ところで、遺留分を認められている一定の相続人(遺留分権利者)とは、誰を指すのでしょうか。民法第1028条では、

(遺留分の帰属及びその割合)
第1028条 兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合に相当する額を受ける。
一 直系尊属のみが相続人である場合 被相続人の財産の3分の1
二 前号に掲げる場合以外の場合 被相続人の財産の2分の1

出典:

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と定められており、ポイントは、法が定める相続人には該当する
ことのある兄弟姉妹が、遺留分は有しないということです。その結果、例外はありますが、具体的には、①配偶者、②直系卑属(子や孫)、③直系尊属(親や祖父母)が、遺留分権利者になり得ることになります。

割合

では、上記の遺留分権利者は、どれだけの遺留分を有しているのでしょうか。上記の民法第1028条により、遺留分の率は、遺留分権利者が親などの直系尊属のみである場合は、被相続人の財産の1/3。配偶者や子がいるなど、それ以外の場合は1/2となっています。また、遺留分権利者が複数人いる時は、それぞれの法律で定められた相続分に、上記の1/3あるいは1/2という遺留分の率を掛けた分を、遺留分として主張することができます。



遺留分減殺請求

遺留分減殺請求とは

遺留分は、遺留分減殺請求というものによって主張することができ、これは、遺留分を侵害する遺贈又は贈与について、遺留分権利者がその遺留分を保全するのに必要な限度で、遺贈又は贈与の減殺を請求するものです。

初めに述べたように、あくまでも被相続人は、自己の財産を自由に処分することができ、赤の他人に全財産を譲り渡すこともできます。そのような、遺留分を侵害する遺贈や贈与は、当然に無効となるわけではなく、遺留分権利者が遺留分減殺請求をすることによって、はじめて問題となります。

要は、亡くなった父が、法律で定められた相続人ではないAさんに全財産を譲るという遺言をし、その子どもなど遺留分を主張できる人が存在する場合でも、「お父さんがAさんに全財産を譲っても構わないよ」と誰も遺留分減殺請求をしなければ、父の遺言どおりに全財産はAさんに渡ることになります。

遺留分減殺請求権は時効などによって消滅しますので、例えば被相続人の子どもが「自分には遺留分があるから、お金が必要になるであろう10年後にいくらか取り返してやろう」というわけにはいきません。あくまでも、相続人の生活の保障のために認められた例外的な権利だということに注意しましょう。

遺留分減殺請求の仕方

遺留分減殺請求の方式には特に決まりがなく、訴えを起こすことなどしなくても、相手方に対する意思表示だけで効力が生ずるとされています。ただ、相手方が素直に請求に応じてくれるとは限らないので、実際には後々のことを考えて、内容証明郵便など証拠が残る形で、相手方に請求をすることが多いようです。

遺留分減殺請求の効果自体は、相手方に意思表示が届いた時点で生じますが、相手方と話し合いができない場合など、現実に遺留分に見合う額を取り戻すには、調停や訴訟など裁判所の力を借りることになる可能性もあります。

遺留分とは、遺留分減殺請求、遺留分の放棄 :よくわかる相続の基礎知識
参照元:すがぬま法律事務所(2015年12月、著者調べ)

裁判所|遺留分減殺による物件返還請求調停
参照元:裁判所(2015年12月、著者調べ)

財産が物である場合

財産が現金などである場合は、遺留分を計算してその分を受け取るだけのことですが、車や土地など、物の場合はどのような効果が生じるのでしょうか。この場合、遺留分減殺請求によって、遺留分権利者に目的物の権利が帰属し、結果的に遺留分権利者と侵害者の共有となることがあります。

その共有関係を解消するには、共有物分割という手続を取ることになり、例えば不動産の場合、遺留分権利者は、不動産の価格のうちのいくらを払ってくれと言えるわけではなく、遺留分に応じた持ち分の移転登記を求めることができるに留まります。ただし、その請求を受けた側が、相当の金銭は払うから移転登記は勘弁してくれという場合であれば、それも可能です。

【相続・遺留分】遺産が不動産のみの場合に、遺留分権利者は金銭での弁償を請求できるか|弁護士の家族法(離婚・相続)法律相談室@川崎市・武蔵小杉
参照元:こすぎ法律事務所(2015年12月、著者調べ)

遺留分の計算

遺留分の対象

上で、遺留分の率は被相続人の財産の1/3だとか1/2だとかいう話が出てきましたが、そもそもその「被相続人の財産」というのがどこまでを指すのかは、意外と判断が難しいところです。遺留分の算定について、民法第1029・1030条にはこう定められています。

(遺留分の算定)
第1029条 遺留分は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与した財産の価額を加えた額から債務の全額を控除して、これを算定する。
2 条件付きの権利又は存続期間の不確定な権利は、家庭裁判所が選任した鑑定人の評価に従って、その価格を定める。
第1030条 贈与は、相続開始前の1年間にしたものに限り、前条の規定によってその価額を算入する。当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をしたときは、1年前の日より前にしたものについても、同様とする。

出典:

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このままだと難しいので、簡単に式にすると、「(遺留分の対象財産)=(相続開始時点の財産)+(贈与した財産)ー(債務)」といった感じでしょうか。これを少し詳しく解説していきます。まず「相続開始時点での財産」には、被相続人の現金や自己名義の不動産などはもちろん、遺贈や死因贈与など、自分が死んだら誰に与えるかを決めたものも、含まれるとされています。

次に「贈与した財産」については、民法に定められた契約としての贈与だけでなく、寄付などを含む全ての無償の処分を意味するとされています。民法第1030条の前半で、相続開始前1年間が対象だとされていますが、後半にあるように、当事者双方、つまり被相続人と受け取った側の両方が、遺留分権利者に損害を加えることを知って行った贈与は、期間に関係なく算入されます。また、被相続人から、遺贈や住宅資金など特別受益と呼ばれるものを受けた相続人がいる時は、その特別受益分も期間に関係なく算入されます。

遺留分減殺の順序

遺留分を侵害している遺贈や贈与が複数ある場合、その全てについて減殺がなされるわけではなく、減殺を受けるものの優先順位のようなものがあります。遺贈と贈与があれば、まずは遺贈を減殺し、それでも遺留分が満たされなければ、贈与を減殺する。贈与が複数ある時には、後で行われた贈与から順に減殺する、というように、基本的には死亡の時点に近い方から順に減殺していくことになります。

遺留分の計算の仕方

ここで一つ、簡単な例を見てみましょう。父がAさん、母がBさん、子がCさんとDさんという4人家族がいるとします。Aさんが亡くなり、「私の全財産である8,000万円は前妻のEさんに譲る」という遺言をしていた場合、BさんCさんDさんには、それぞれいくらの遺留分があるでしょうか。

まず、法律に基づいた相続の割合は、Bさんが1/2、Cさんが1/4、Dさんが1/4となります。初めの方で紹介した民法第1028条により、それぞれの相続の割合に1/2を掛けることになりますので、それぞれの遺留分は、Bさんが8,000万円×1/2×1/2=2,000万円、CさんとDさんがそれぞれ8,000万円×1/4×1/2=1,000万円となります。実際には、もっと複雑な事例が多いと考えられますので、弁護士事務所などで相談をし、計算や書類作成をしてもらえば安心です。



遺留分はいつまで主張できる?

遺留分の放棄

まず、遺留分については、相続開始前であれば家庭裁判所の許可を受けて、開始後であれば許可なくして、放棄をすることができます。遺留分を放棄しても相続権は失いませんが、もちろん遺留分減殺請求をすることはできなくなります。

相続放棄による請求権の消滅

相続というのは、基本的に借金まで受け継ぐものなので、そもそも何も相続しないようにしたいという人のために、相続放棄という手続があります。相続放棄をしても、被相続人の遺贈などに対して遺留分減殺請求をできるかという点ですが、法律上、相続放棄をした人は、はじめから相続人とならなかったものとみなされます。遺留分権利者は、あくまでも兄弟姉妹以外の「相続人」のみなので、相続放棄をした人は相続人とみなされず、遺留分減殺請求もできないことになります。

遺留分減殺請求の時効

遺留分減殺請求は、いつまでもできるわけでなく、民法第1042条に定められているとおり、時効によって消滅します。上でも述べたように、遺留分を侵害する遺贈や贈与は、決して無効なわけではありませんので、減殺請求を考えている方は、くれぐれもその権利を失ってしまわないように注意しましょう。

(減殺請求権の期間の制限)
第1042条 減殺の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び減殺すべき贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から10年を経過したときも、同様とする。

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争いを防ぐには

遺留分を考慮した遺言

遺言をする際は、相続人の反感を買わない内容にしておくことで、後々の遺産相続問題を回避することができます。もちろん、例えば「子どもたちが誰も寄り付かなかったなか、親子のように熱心に介護をしてくれたお手伝いのAさんに遺産を譲り渡したい」というようなこともあるでしょうし、そういう特別な事情のある人ほど遺言を書くとも言えるかもしれません。

これについては、生命保険や養子縁組を使った対策をとったり、遺言にその理由や遺留分減殺の財産の指定を記載したりと、様々な選択肢があるようです。遺留分を奪うことはできないので、必ず上手くいくというものはありませんが、それぞれの事情に合った対策を生前にとっておけば、望まない事態を回避できる可能性は少しでも高まりそうです。また、兄弟姉妹には遺留分がありませんので、例えば何らかの事情で弟には相続させたくないという場合などは、遺言を作成するのが良さそうです。

ずる賢い遺留分侵害者に注意

なかには、遺留分を侵害しているAさんがずる賢い人で、被相続人に自分に有利な遺言を書かせたり、無知な相続人に遺留分の放棄を求めてきたりすることもあるようです。よくわからないまま言われたとおりにしていると、気付いた時には赤の他人であるAさんが被相続人の全財産を受け取り、相続人は手も足も出せないという事態にもなりかねません。安易に署名などをせず、適宜弁護士などの相談機関なども利用しながら、しっかりと状況を理解したうえで対処しましょう。

感情に流されすぎない

遺産相続なんて難しい言葉を使ったところで、そこで起こる争いは、それまでの家族間の不仲や恨み、一時的な感情から起こる喧嘩のようなものであることも多く、同じ状況でも何の揉め事もなく乗り切っている人たちもいます。

そもそも遺産というのは、いくら肉親であっても他人の財産ですから、アテにしすぎないことが大事です。やはり財産をもらえる権利があるなら1円でも多く欲しいと思うのが人間というもので、その結果醜い争いが起こってしまうことも多いのではないでしょうか。遺留分を主張するかどうかについても、自分の欲望に囚われず、故人の意思を尊重して判断しましょう。

まとめ

以上のように、遺留分という制度は、被相続人の遺贈や贈与によって不利益を受けて困っている人にはとてもありがたいものですが、なまじそのような権利があるために、なんとかそれを行使して財産を受け取ろうとする相続人が出てくることで、被相続人の意思に反した事態になる可能性も否めず、その扱い方は難しいところです。

財産を遺す側としては、自分の望む分配がなされるように生前に対策を練る。相続人側としては、不本意に権利を消滅させて、ずる賢い人の思う壷にならないように慎重に行動する。遺留分が相続人の生活の保障という本来の目的どおりにのみ利用されることを願います。