生前相続の賢いやり方<生前贈与フル活用で相続税を節約しよう

生前相続、これは生前贈与といいますが財産を持っている人は、後に残された家族の相続税のことを考えておくことが大事です。醜い相続争いやいろんなゴタゴタを防ぐためにも、また相続税の税負担を軽くするためにも生前から計画的に贈与を使っておけば死んでも悩むことはありません。家族のためにも生前贈与の賢い方法をお教えしましょう。



生前相続について

生前相続:生前贈与とは

相続というものは、自分が死んでから財産を家族などの相続人に受け継いでもらうものです。それに対し生前相続(贈与)は、自分が死ぬ前つまり生きている間に自分の財産を家族などに分けてしまうことです。

相続となると遺言書を書かない限り、自分の意志で財産を分けることができませんが、生前相続(贈与)は自分が生きているうちに、自分の意志で財産を分けることができるというのはある意味非常な満足感を得ることができるといえましょう。

財産を相続させたくない人もいるかも知れません。しかし死んでしまった後ではどうすることもかないません。「あいつにだけは財産をやりたくなかった」と思っても、法律にしたがって相続人が決まっていきます。そして、誰がどの財産をそのくらい相続するかを勝手に決められてしまいます。

でも生きているうちなら「あいつに財産を分けてやりたい」や「このくらいやりたい」は自分で決めることが自由にできます。もちろん贈与には贈与の成立要件が必要とはなりますが、少なくとも自分の希望通りに財産をやりたい人に好きなだけ分けてやることができるでしょう。

また「贈与」をうまく使うことによって、将来相続であろう家族の相続税負担を軽くすることが大いに期待できます。つまり生前相続(贈与)はいわゆる「相続税対策」としての機能も持ち合わせているわけです。しかし贈与の仕方を間違えてしまうと大きな贈与税がかかってしまい、かえって負担を重くさせてしまう場合もありますので、贈与税がかからない非課税枠や制度、特例などを十分理解した上で生前相続(贈与)をすることをお勧めします。

生前贈与の成立要件

「贈与」には成立させるための要件があります。別にそれほど難しいものではありません。財産を贈る人ともらう人のお互いの認識が必要となるだけです。もっと簡単にいえば「これあげます」といったら「いただきます」という了解がないと「贈与」とならないということです。このことは民法第549条にあるとおりです。

■民法(贈与)
第五百四十九条  贈与は、当事者の一方が自己の財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾をすることによって、その効力を生ずる。

出典:

law.e-gov.go.jp
贈る人の一方的な気持ちだけでは贈与は成り立たず、お互いの意志を確認しお互いの了解が必ず必要になります。相手がもらうことを了承しないまま、「じゃ、ここおいておくから」といって立ち去っても贈与にはなりません。もちろん相手がそれを持って帰れば結果的には「了解した」ことにはなりますが、そのまま放置した場合は贈与したことにはならないといえます。

また贈る人の財産の種類や金額にかかわらず「贈与」には契約書という書面は必要なく、税務署の申告も市町村役場の手続きも必要ありません。「明日100万円上げるから、家に来てよ」といわれ「いいよ」という口頭での約束でも贈与は成立したことになります。

ただし飲み会での会話の中で出た贈与にかかわる発言は、証拠となるものがないため「いった」「いわない」のもめごとにもなりかねません。

■民法(書面によらない贈与の撤回)
第五百五十条  書面によらない贈与は、各当事者が撤回することができる。ただし、履行の終わった部分については、この限りでない。

出典:

law.e-gov.go.jp
民法第550条のとおり証拠となる書面がないと「あれは間違いだった」といって取り消されてしまうこともあるといえます。これではもらう人にとってはとても残念な結果となってしまいますね。

このようなトラブルを避けるためにも「贈与契約書」という書面を作っておけば、贈与に関する発言を裏付ける証拠となりますので書面はあった方が良いともいえるでしょう。

例えばこんなことも考えられます。贈与を受ける人が指定された日に相手の家へ行ったら、その人は既に亡くなっていたということもあるかも知れません。そのようなときに贈与の話をしてもただの口約束だけでは相手の家族に信用されないばかりか、下手をしたら「ゆすり」や「たかり」と思われかねません。そのためにも「贈与契約書」の作成は重要だといえます。

なお贈与してしまった後で「ゴメンやっぱり返して」という撤回はできませんので、贈る人は軽々しい発言はしないように注意した方が良いですね。

贈与契約書とは

「贈与契約書」の作成は贈る人ともらう人の意思確認が取れれば良いので、お金を借りるときのような「金銭消費貸借契約書」のような仰々しい書面でなくてもOKのようです。基本的には日付と贈与する内容、お互いの住所氏名、押印といった簡潔な大丈夫でしょう。手書きでも良いですしパソコンで作成しても良いですが、住所や氏名はそれぞれ各人の自筆であった方がより贈与契約書として認められるでしょう。

贈与契約書のひな型
参照元:八十二銀行(2015年12月、著者調べ)



生前相続の種類

暦年課税制度

贈与する財産は不動産でも現金でも種類は何でも良いとされていますが、まず考えられる贈与の種類で手ごろといえるのは金銭の暦年課税制度を利用した贈与といえるでしょう。生前に贈与をする目的は多額の財産を減らすことです。財産を多く持ったまま亡くなってしまいますと、相続人が多くの相続税を納めなくてはならなくなりますので少しでもその負担を軽くしたいところです。

なお暦年課税制度についての説明は以下のとおりとなります。

贈与税の計算は、まず、その年の1月1日から12月31日までの1年間に贈与によりもらった財産の価額を合計します。続いて、その合計額から基礎控除額110万円を差し引きます。次に、その残りの金額に税率を乗じて税額を計算します。

出典:

www.nta.go.jp
国税庁の説明を解釈すれば贈与には基礎控除額110万円があるということです。1年間に贈与された金額が110万円以下なら全額控除されるわけです。よって贈与税はかからないことになりますね。

例えば贈与したい家族が息子夫婦と子ども2人の合計4人なら、110万円x4人=440万円/年、までの贈与には贈与税はかかりません。仮にこの贈与を10年間行えば4,400万円、20年行えば8,800万円もの財産を減らすことができることになります。

しかしこのように毎年同じように贈与を続けていると、税務署から見れば明らかに相続税対策ととられてしまう恐れがあります。悪くいえば「相続税逃れ」をしているのではないかと疑われることでしょう。確かに行っている目的は税務署の睨んだとおりなのですが、できることならあまり疑念を持たれるような贈与は避けたいものです。そのためには以下の対策が必要になると思います。

・贈与契約書を作成する
あくまでもこの贈与はお互いの合意のもとに行われたものであるとの証拠です。また、たまには贈与の目的を入れると良いかも知れません。例えば自動車購入資金のため、や教育資金のためなどの理由を書き加えると良いでしょう。

・贈与する日付を変える
毎年同じ月に贈与するのではなく、1月や8月など家族4人バラバラに贈与することです。

・金額を変える
これも贈与する日付同様に家族4人バラバラな金額にすると効果があるかも知れません。110万円にこだわってばかりいると、何かおかしいと税務署に思われてしまうでしょう。たまには年間90万円とか105万円といった金額でも良いと思います。

・たまには贈与税を支払う
家族4人に贈与するのであれば毎年誰かは贈与税を払うことはあっても良く、少しでも税金を払っておけば税務署も納得するのではないでしょうか。しかし贈与税の税率は高いので、贈与する金額は年間110万円を少し超えるくらいに抑えておけば税率10%です。例えば年間310万円までの贈与の税率が10%となっており計算方法は以下のとおりです。

・(贈与額310万円-基礎控除額110万円)x税率10%=20万円
・(贈与額150万円-基礎控除額110万円)x税率10%=4万円
・(贈与額115万円-基礎控除額110万円)x税率10%=5,000円

以上のような計算となりますので、多少贈与税を払うことも長い目で見れば良いことかも知れません。

No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)|贈与税|国税庁
参照元:国税庁(2015年12月、著者調べ)

相続時清算課税方式

暦年課税方式に対し相続時精算課税方式という方法があります。満65歳以上の親から将来の相続人となるであろう満20歳以上の子どもに贈与する際、2,500万円までなら非課税となるものです。この方法を使えば仮に子どもが2人いれば2,500万円x2人=5,000万円の財産を一気に贈与することができます。

なお贈与する金額が2,500万円を超えた場合は、超えた分の金額に税率20%乗じた贈与税を納め、実際に相続した際には自分の納める相続税から納めた贈与税分を差し引くことができるのです。以下に例を上げましょう。

・(贈与された額3,000万円-非課税分2,500)x税率20%=100万円

この場合100万円の贈与税を納めておけば相続が発生した際に自分の納めるべき相続税、仮に400万円だとすると400万円-100万円=300万円の相続税を納めれば良いとなります。簡単にいえば相続税の仮払いのような感じです。

相続財産のうち分割することの難しい家や土地などの不動産がある場合は、この相続時精算課税方式を利用すれば後てもめることも少ないのではないでしょうか。

なお相続時清算課税方式で贈与した後は、暦年課税方式の贈与を行うことができませんのでご注意ください。

No.4103 相続時精算課税の選択|贈与税|国税庁
参照元:国税庁(2015年12月、著者調べ)

配偶者控除

夫婦間の贈与に「配偶者控除」という非課税枠があります。これは贈与税の特例制度で配偶者が住むための居住用の住宅や土地、マンションの購入するための資金を1回のみ限定で最高2,000万円までなら贈与税がからないというものです。さらに配偶者控除には基礎控除分も含まれますので合計すれば2,110万円までの贈与が非課税扱いさます。

夫婦の結婚期間が20年以上で配偶者が住むための住宅購入用資金なら、2,110万円の贈与が非課税となるのはうれしい特例といえます。なお配偶者の住宅購入用資金とはいっても、もう片方の配偶者がその住宅に住んではいけないということはありませんので一緒に住んでも構いません。

さらに配偶者控除を利用した贈与の後でも暦年課税制度の活用はできますので、翌年から基礎控除される範囲110万円の贈与を続けていくことも可能です。

ただし資金だけ贈与されて住宅を購入しないということはできず、贈与された翌年の3月15日までには住宅を購入し既に住んでいなければ、配偶者控除の特例を受けることができませんので贈与する時期を慎重に検討することが大事となります。

贈与の対象期間は1月1日から12月31日ですので、マンションや建売住宅を購入するのであればそう期間は要しないかも知れませんが、住宅を建築するとなると結構な期間が必要となるでしょうから3月15日の期限を逆算しなければならないこともあるでしょう。

配偶者控除の2,000万円+基礎控除の110万円=2,110万円が、控除できる金額ですから何が何でも2,110万円以内で住宅を購入しなければならないといわけではありません。例えば住宅の購入費用が3,500万円でしたら、その額から2,110万円を引いた1,390万円分の贈与税を払えばいいだけのことですね。

No.4452 夫婦の間で居住用の不動産を贈与したときの配偶者控除|贈与税|国税庁
参照元:国税庁(2015年12月、著者調べ)

その他の贈与

特定贈与信託

もし自分の子どもが重度の心身障害者である場合は、親として子どもの将来のことを考えざるを得ません。自分たちが死んだ後、残った子どもが生活していけるだけの生活費や施設に入っていればその療養費のことが心配になります。

そのようなときは現金を子どもの口座へ振り込んで贈与せずに、信託銀行に預けて間接的に贈与すれば最高で6,000万円までの財産(現金や株券、賃貸不動産など)は全額非課税となります。親は信託銀行と「特別障害者扶養信託契約」を交わし信託した財産の運用益を子どもの口座などへ振り込むようにします。

税務署への手続きは信託銀行が障害者非課税信託申告書を提出することになっていますので、親としての手続きは必要ありません。しかし口座に入ってくる運用益の管理を子どもができないことも考えられますので、その場合は家庭裁判所へ後見人を立てるように申し立てておけば安心といえるでしょう。

特定贈与信託 – 信託協会
参照元:信託協会(2015年12月、著者調べ)

[手続名]障害者非課税信託申告の手続|相続・贈与税関係|国税庁
参照元:国税庁(2015年12月、著者調べ)

裁判所|後見サイト
参照元:裁判所(2015年12月、著者調べ)

住宅取得資金

親から住宅購入資金として子どもが贈与を受けた場合、基礎控除分の110万円と合計して2,000万円までなら住宅購入取得資金の特例を利用することができます。配偶者に対しても同じような制度がありますが、子どもについても認められています。

配偶者控除の適用は1回のみという限定がありましたが、子どもの住宅購入資金の非課税枠については回数の記述がありませんので、2年に分けて贈与することもできそうです。また新築以外でも中古住宅の購入や増改築でも一定の条件を満たせば建物の構造により新たな非課税枠も設けられているようです。

なお、この特例の適用の範囲は以下のとおりです。

■国税庁
(1) 受贈者の配偶者及び直系血族
(2) 受贈者の親族((1)以外の者)で受贈者と生計を一にしているもの
(3) 受贈者と内縁関係にある者及びその者の親族でその者と生計を一にしているもの
(4) (1)から(3)に掲げる者以外の者で受贈者から受ける金銭等によって生計を維持しているもの及びその者の親族でその者と生計を一にしているもの

出典:

www.nta.go.jp

No.4508 直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税|贈与税|国税庁
参照元:国税庁(2015年12月時点、著者調べ)



まとめ

いかがでしたでしょうか。自分の財産は自分で分割するという選択は相続になった際の家族のへの配慮ともいえます。遺言書を書くことも良い方法ですが、相続税のことを考えると生前からきちんと計画を立てて準備しておくことも重要なことだと思います。