農地の相続は届け出が必要です!手続き方法と農地が特別なワケ

土地を相続したら相続登記をするのが基本ですが、土地によって別の手続きも必要だって知ってます?その別な手続きが必要な土地の代表格が「農地」!相続する前に必要な知識を簡単に覚えてしまいましょう。



相続手続き大丈夫?

誰かが亡くなったら相続がおきます。相続とは亡くなった人(被相続人)の不動産や預金、有価証券といったプラスの財産を受け継ぐことであると同時に、義務や債務、借金といったマイナスの財産も受け継ぐことをいいます。

相続自体は特別な手続きは一切必要なく、被相続人が亡くなった瞬間にその時の相続関係から自動的に相続人が決定し、瞬時に財産が相続されるのが日本の相続制度です。ですが、受け継いだ財産の中身によってはその後別途手続きが必要になります。

うっかり知らなかったじゃ済まされない、相続手続きをご紹介します。

特別な手続きが必要な相続

相続の手続きというと真っ先に相続されるのが、相続で揉めて裁判所で審判してもらうことや、相続人同士で話し合って遺産の取り分を決めること、相続財産のマイナスが大きく、裁判所で限定承認や相続放棄の手続きをすることが思い出されるのではないかと思います。

日本の相続は被相続人の死の瞬間に相続財産が自動的に法律に従って相続される仕組みです。しかし、遺言があれば遺言に従った分割が最優先になりますし、遺言がない場合に相続人同士が「実家は長男が相続しましょう」「賛成」と話し合って(遺産分割協議で)決めれば、それもまた優先します。

相続の法律というと、配偶者は1/2で子供も1/2という分数を使った取り分の計算が有名で何となく聞いたことのある方も多いのですが、他に被相続人や相続人の分割に対する考え方の表明があってそのように分ければ法律に優先することになります。

また、限定承認や放棄、相続に対する判決があれば、そちらも法律で定められた取り分に優先することになります。何か特別な意思(遺言など)や話し合い(遺産分割協議など)、裁判所手続き(相続放棄、限定承認、審判、調停など)があれば、それらは法律に基本的に全て優先し、相続も優先事項に添って行われることになります。

相続の手続きというと、まずはこうした「相続自体の手続き」を思い浮かべるのではないでしょうか。しかし、相続に必要になる手続きはそれだけではないのです。

特別な手続きが必要な「財産」

相続放棄や遺産分割協議、限定承認、審判、遺言などは、相続自体、相続の方法やそれぞれの相続人の取り分を決めるための手続きであるといえるでしょう。たくさん書類を書いたり、話し合いをしたり、それぞれの手続きによって厳格な要件がありますので、手続きのためにあちこちに足を運ぶことになるのではないでしょうか。

しかし、相続の手続きは決してそれだけではありません。今回のお話で出てくる手続きは、こうした「遺産をどう分けるか」の後の手続きです。相続に関する第一の手続きが死亡届の提出や埋葬許可証の発行といった葬祭に関することであれば、第二の手続きは遺産分割方法のための諸手続き、そして第三の手続きとも言えるのが今回のお話に登場する「財産に対する手続き」です。そう、物です。個別の物。財産です。

財産に対する個別の手続き

相続によって財産を取得するとそれぞれの手続きが必要になりますね。

預金を相続したら、まずは被相続人の預金口座を解約してお金を手にしなければいけません。この亡くなった人の預金口座の解約も手続きです。株式を相続したら亡くなった人の名前から相続人の名前に名義の書き換えをすることになります。株式に制限がかかっていれば会社との間で買い取りの話し合いが持たれることでしょう。これも手続きです。

特許などの権利を相続した場合も特許庁で手続きが必要になりますし、借金を相続した場合も、借金のかたである抵当の登記の修正が必要になることでしょう。不動産を相続した場合にも相続対象の家や不動産の名義を書き換えるために相続登記を申請することになります。これが第三の手続きである「財産に対する手続き」です。個別の財産に対して「新しい持ち主の相続人ですよ」という形で必要な書き換えを行うのが第三の手続きなわけですね。

しかし、財産に対する手続きという性質でも、意味合いが異なった必須手続きがあることはご存知でしょうか?財産が新しい持ち主になったという名義書き換えは基本的に自由なものが多いです。相続登記もデメリットを甘受するなら放置しても一向に構いませんという手続きです。ですから、土地や家がかなり前の相続人の名義のままであったり、株の名義書き換えがされておらずずっと亡くなった人の名前で通知が来ているというのはよくあることです。

基本的にしなければいけないんだけど、デメリットを甘受すればさぼっても国や自治体、諸団体は感知しませんというのが財産が相続人に分割された後の手続きの特徴ではないかと感じます。しかし、一部、絶対にしてくださいねという手続きがあるのはご存知でしょうか?受け継いだ財産によっては特定の団体に届け出が必要になるんです。

農地の相続は特殊

農地がまさに特定の団体に届け出が必要な財産になります。農地を相続した場合は農業委員会に届け出をしなければいけません。

農地自体の相続は、農業に従事していなくても可能ですし、普通の相続と何ら変わるところがありません。相続登記をして亡くなった人から相続人に名義の書き換えを行うところも同じです。その他に、「相続しましたよ」と届け出をしなければならないというワンステップがあるだけですが、そのワンステップがあるだけで農地の相続は特殊と言えるでしょう。

相続とは [相続・相続税] All About
参照元:All About(2015年12月時点、著者調べ)

【Q&A】農地を相続したときに注意すべきことは?
参照元:おちいし司法書士事務所(2015年12月時点、著者調べ)



農地の相続と手続きの意味

農地を相続すれば農業委員会に届け出をしなければいけません。ですが、届け出をしていなければ相続できないというわけではないです。相続は国の法律です。被相続人が亡くなった瞬間に相続が発生すると法律で厳しく決まっているわけですから、農業委員会に届け出をしなければその相続は無効です!許可をもらわなければ相続できない!ということがあるわけないのです。

法律で許可をもらわないと無効と決まっているなら届け出をしなければ無効は当然ですが、ただ単に届け出をお願いしますねという決まりですから、届け出を欠いて相続自体は有効です。相続しましたから今後よろしくお願いしますね!ということを事後に教えてくださいという性質の届け出になります。

考えてみれば、これは奇妙な話です。そう思われませんか?農地を相続人の誰が相続しようが勝手なはずです。それに、相続した者が土地をどう利用しようが勝手なはずです。日々、日本では、相続した土地を有効活用しようとアパートやマンションを建てたり、売却したりといったことが当然に行われています。営業をする場合はそれぞれの営業に合った許可は必要になりますが、アパートやマンションを建てるための土地を相続したらどこどこの団体に届け出してね、なんていう決まりはありません。

「農地」という土地自体を相続したら届け出をお願いするということが少々特殊と言えます。なぜそんな少々特殊なことをするのでしょう?それは、農地が特殊だからに他なりません。

農地は特殊という考え方

日本には、農地は特殊という思考があります。確かにその通りかもしれません。農地で作られるお米は日本の主食であり、食糧自給率や国力にさえ大きく関わるところです。しかも農地は水を多く使いますから水路をコントロールするという面でもどのくらいの農地があって誰が管理するかを知っておかなければいけません。

また、農地は自然の保全にも密接に関わります。農地は町中にぽつんとある場合より、郊外にたくさん並んでいますよね。一つの農地の管理は他の人の農地にも関わります。土地が接しているわけですから。一人が管理を怠けて雑草をぼうぼうにしてしまうと、そこから害虫や害獣、病気が発生します。また、水のコントロールも一つの土地ごとに行うのは難しいですから、広がった田んぼ全てで行わなければいけません。

農地を所持するということは管理の面でも非常に手がかかることなのです。手がかかることですから通知や話し合いも頻繁です。こんなことをしてください、という連絡もあるでしょう。

国のデータのため、生産量の調整のため、土地の保全のため、連絡のため、対策のため。農地を相続したら届け出してくださいねと少々特殊な定めが置かれているのはこうした理由のためです。こうした理由があるのですから、相続の時だけでなく、その他の理由で人手に渡る時も別途手続きが必要です。

相続の場合は農業委員会への届け出だけですが、人に農地を貸す場合や売る場合は農業委員会か都道府県知事の許可が必要になります。どちらの許可が必要かは農地の面積によって決まります。相続の場合は届け出だけで問題ありませんが、相続後に誰かに売りたいという場合や誰かに貸したいという場合は別途許可が必要になります。

手続きはどうすればいいの?

届け出といっても難しく考える必要はありません。自分ですることもできます。いいえ、とても簡単な届け出ですから忙しくて提出に行けないという場合を除き自分でするのが基本です。届け出に関して簡単に説明します。

農地相続の手続き

農地相続の届け出が義務付けられたのは平成21年の農地法改正からです。それまでは、相続の際、届け出は不要でした。売り買いや貸す場合は許可を取ってくださいねというだけでした。現在は相続したら届け出要と定められているからにはしなければいけません。この届け出の正式名称を「農地法第3条の3第1項の規定による届出」といいます。

農業の盛んな土地であれば、誰かが亡くなったと役場に届け出をすると、その人が農地を相続するかどうかを問わずとりあえず農地の届出書を配るといったことも行われているようです。

届け出自体はとても簡単です。配布されている書類に記入をして提出するだけです。書類は基本的に市町村役場で配布しています。市町村によっては、家族の誰かが亡くなりましたと申し出ると、親切に、農地相続の届け出が必要になった旨の資料や届け出の用紙、記載例を各種書類に添付してくれることもあります。

前述した通り、他、都道府県によってはダウンロードにより取得することも可能です。書式は各市町村によって微々たるものですが異なっているようです。ですが、記載する内容は大体同じです。

■相続により農地の権利を取得した人の住所氏名、連絡先
■農地を所有していた人(被相続人)の住所氏名
■権利を取得した日

基本はこの三点を記載し、他に確認したいこと、書いて欲しいことがあれば各市町村によって各自ということになります。届出書自体はほとんどA4用紙一枚で、5分もあれば書けてしまうような書類です。この書類に添付書類(遺産分割協議書や登記事項証明書)をセットで提出します。添付書類によって「確かにこの人が相続しました」ということを証明するためです。

参考として柏崎市をご紹介します。皆さんが届け出をする時はご自分の市町村から書類をもらってくださいね。

相続などによって農地の権利を取得したときは農業委員会への届け出が必要です|柏崎市
参照元:柏崎市(2015年12月、著者調べ)

農地相続の届出書(記入例pdf)

農地相続の届出書(書式pdf)
参照元:柏崎市(2015年12月、著者調べ)

あっせんの希望とは?

「あっせんの希望」という項目があります。この項目にチェックを入れると、農地を相続したけれど使わないという場合は農業委員会が農地の借り手や引き受け手を斡旋してくれる場合があります。相続はしたけれど個人的に売却する予定がない、持っているだけという場合は管理の相談に乗ってくれ、斡旋も行ってくれますのでチェックを入れておくのが良いでしょう。

ただし、この「あっせんの希望」という項目が届出書にない自治体もあります。

農地相続届け出書類の提出先

提出先をよく確認しておくことが必要です。

市町村ごとに農業委員会は異なりますので、別の自治体の農業委員会に提出することはできません。用紙自体を自治体役場が配布していることが多いので、提出先は自治体役場の窓口でもいいのか、それとも管轄の農業委員会まで直接提出しなければいけないのか確認しておいた方が良いでしょう。

農業委員会と役場は必ずしも隣接していませんので、どちらでもいいという場合は行きやすい方に持って行った方が楽ではあります。しかし、相続などの手続きにより役場に足を運ぶ機会があるという場合は、役場でも提出可能というのであれば手続きや書類集めのついでに提出してしまいましょう。



相続以外の農地の手続き

農地を相続しても、普段は首都圏に住んでいて手入れはできないという場合は売却を考えることもあるでしょう。自分が兼業で稲作により収益を上げようとしても遠隔地ですよなかなか手入れもできず、人に都度委託していればその費用だけでかえってマイナスになるケースもよくあることです。近年は昔と異なり稲作だけでなく稲の種を作るという利用方法や、ブランド和牛の飼料となる無農薬の稲藁を生産するといったことも行われていますが、農地の運用は実務として非常に困難だと言えます。

農地を継続使用する気がない場合は、農業委員会に相談することにより引き取り手を探すことも可能ですが、現状ではそう簡単に引き取り手は見つからないようです。企業や個人が事業規模で農業を営んでいて、隣接する農地を引き取って欲しいという場合や事業を拡大したいから積極的に買い取りを行っている農業主が近くにいるという場合を除いてはなかなか難しいようです。こうした、相続しても農地を売れない、使わない、放置しているという現状が問題になっています。日本の放置田畑問題は時々ニュースでも取り上げられていますよね。

運よく引き取り手が見つかれば相続手続き後に売却し、売却が難しければ農地自体を近隣の農業主に貸すといったことがよく行われています。

その他の手続法

相続した農地を誰かに売る場合または貸す場合は、相続とはまた別の手続きが必要になります。農地の面積によって、都道府県知事または農業委員会の許可が必要になります。許可です。届出ではありません。届出は「相続しましたよ」という報告のようなものですが、許可の場合は「売っていいですか?」という判断を仰ぐといった意味を持つので届出とは性質が別のものです。

許可なく農地の売却や貸し出しをした場合は無効です。農地を売却した場合に土地の名義書き換えをするには必ず面積によって農業委員会または都道府県知事の農地法に則った許可書面の提出が必要になります。相続以外でも農地には一般の宅地にはない特殊な手続きが多いと言えるでしょう。

農地を耕作するための所有権移転・耕作権設定手続き(農地法第3条)|柏崎市
参照元:柏崎市(2015年12月、著者調べ)

最後に

農地は日本の土地の中でも特殊な位置づけとなっています。ひとえに日本は昔から米を主食にしており、自然の保全のために農地の管理と整備が不可欠だからだと言われています。しかし考えれば、相続によって特殊な手続きを踏まなければいけないのは農地の相続だけではなく、他にも色々あるといえるでしょう。

何かを相続すれば基本的に何かの手続きが増える。日本の相続はそのような面を持っているといえます。 ※本記事は一般的な情報に過ぎず、適用法令等の改正、前提事実や個人状況の違いおよび変化によって、掲載内容と実際の結果が異なってしまう可能性があります。従って本記事の掲載内容については一切の責任を負いかねますので、内容の解釈や実践はご自身の責任で行い、専門家に相談されることを推奨いたします。