相続権あげます!相続分の譲渡ができるって知ってます?

相続が発生し、いざ相続!となった時、自分の相続分を人にぽんとあげてしまえるって知っています?そんなことをして何かメリットがあるの?と思われるでしょうが、これがけっこう使える方法なんです。日本は契約自由の国、誰に相続分をあげるのも自由です。譲渡の具体的な方法と使い道とは?



遺産の取り分はこうして決まる

家族が亡くなっていざ相続。しかし、自分の相続の取り分をぽんと人にあげることができるのはご存知でしょうか?そんなものをもらってどうするんだ?と思われるかもしれませんが、実は以外に実益のある方法なんです。

日本は契約自由の国。口約束も約束のうちという国です。公序良俗に反しない(殺人委託や愛人契約ではない)、それでいて本人たちが納得していればどんな契約をするのも自由です。例えば、「売買」は民法に定められた契約方式の一つではありますが、厳しく内容を定められているわけではありません。後払いでも先払いでも、一年後の支払いでも、一年後に品物を渡す約束でも、同時にお金と品物を交換するでも、本人たちがそれで良いと約束すればOKなのです。しかも、口約束も約束のうちですから、書面に拠らなくても約束は可能です。

もちろん、相続に関してもそのあたりは緩やかになっています。遺言の要件は法律で厳しく定められていますが、これは書いた本人が遺言の効力発生時に亡くなっていて「ここはどういう意図なの?」と確認ができないからです。ですが、受け取る側である相続人は生きていて、口で自由に自分の考えを話すことができるわけです。

相続人は相続を放棄することもできますし、相続財産の一部だけを相続することもできます。生きている人間である相続人同士で話し合いで相続分を決めることもできます。また、人にぽんと自分の相続分をあげてしまうことだって自由です。

「相続分の譲渡」のメリットと方法、どんな時に使えるのかを簡単かつ具体的にご説明します。

相続は遺言が最優先

相続の際に「遺言」があった場合、遺言で指定された相続財産の分割が最優先となります。なぜなら、相続財産はもともと亡くなった人のものだったわけですから、財産の持ち主が「誰にこれを渡して欲しい」「誰にはこんな形で渡して欲しい」という気持ちがあるのなら、それを優先した方がいいからです。遺言があっても相続人は放棄や遺産分割協議をすることができますが、相続において「元の財産の持ち主の意思」である遺言は最も重要で優先されるものなのです。

遺言がなければ?

相続の場合、全ての人が遺言を用意しているわけではありません。遺言がない場合は自然に法律に定められた分割方法で遺産を分けることになります。

法律に定められた分割法は有名ですのでほとんどの方が聞いたことがあると思います。いわゆる、配偶者が1/2で子供が1/2というやつです。簡単に説明すると、こんな形の分割方法になります。

■配偶者だけが相続人の場合、遺産全て
■子供だけが相続人の場合、遺産全て
(子供が二人いれば二人合わせて全てですから、それぞれ1/2ずつになります)
■亡くなった人の両親だけが相続人の場合、両親合わせて遺産全て
(両親が父母両方存命であれば、二人合わせて全て。つまり片方が1/2です)
■配偶者と子供が相続人だった場合、配偶者が1/2で子供が合わせて1/2
(子供が三人いれば三人合わせて1/2を相続します)
■配偶者と亡くなった人の両親が相続人の場合、配偶者が2/3で両親が合わせて1/3
(両親は合わせて1/3ですので、父母ともに存命であれば1/3を二人でわけます)
■配偶者と亡くなった人の兄弟姉妹が相続人だった場合、配偶者が3/4で兄弟姉妹が合わせて1/4
(兄弟姉妹が複数いた場合は全員で1/4を分けます)

分割例としては、母と子一人が亡くなった父の預金1000万円と父名義の家を相続する場合は、家は1/2ずつの持分で登記し、預金は500万円ずつ相続することになります。また、亡くなった夫の遺産1000万円と夫名義の家を妻と夫の兄が相続する場合は、家は妻3/4、兄1/4の持分で登記をし、預金は妻が750万円、兄が250万円相続します。

ですが、世の中の家庭事情は家ごとにさまざま、親族事情もさまざまです。それぞれの事情に合わせて相続人が話し合って法律と異なる遺産の取り分を決めても良いとされています。これを遺産分割協議といいます。前の事例をそのまま使って説明します。

子供が「母さんの老後の生活資金にしなよ」と言って遺産分割協議をし、母に預金1000万円だけ全て相続させ、家は固定資産税を子供も負担して母の生活の援助をするため、そのまま1/2ずつ相続することにしたり、夫の兄が「A子さん、このお金は弟が残したものだからあなたが受け継いだ方がいいよ」と言い、話し合いで家も預金も全て妻が相続することにしたりといった、話し合いで決める法律と異なる相続のことです。

このような相続は法律と異なった取り分になりますが、各家庭の事情があるだろうということで認められています。また、遺言がある場合でも、相続人全てと遺言執行人がいる場合は遺言執行人も承諾した場合は遺産分割協議を行うことができます。

No.4132 相続人の範囲と法定相続分|相続税|国税庁
参照元:国税庁(2015年11月、著者調べ)

遺産の取り分まとめ

■遺言があれば遺言が優先
■遺言がなければ法律分割
■遺産分割協議で法律とは別の分割方法ができる

以上が遺産の取り分の決まり方です。遺言があるかないかで法律分割か遺言による分割かが決まり、なければ基本的に法律で定められた取り分での分割になります。ですが、遺産分割協議をすると決めればその法律の取り分を自分たちの都合で変えることもできます。



<譲渡>とは?

譲渡とは、自分の遺産の取り分を他者にあげてしまうことです。法律上の自分の取り分をぽんと有償無償問わず誰かにあげてしまう、これを「相続分の譲渡」といいます。

譲渡は同じ相続人に対してもできますし、赤の他人にもできます。他の相続人の同意は必要ありません。自分の取り分なのだから自分の判断で譲渡できるということです。

自分の法律分割での相続分が1/2であればそれをそのまま他の人に譲り渡すことになります。特に書類は必要なく、「あげるよ」「じゃあもらうよ」という口約束でできますが、後に譲った譲らないで揉める可能性があることと相続登記の際に譲渡を証明する書類が必要になることを考えるときちんと書類を用意した方が賢明です。また、譲渡の際には他の相続人に知らせなければ譲渡を受けた人に対し他相続人たちが「どちら様?」ということになるので、通知が必要です。

譲渡は誰に対しても可能ですが、遺産分割前に行わなければなりません。遺産分割協議がきちんと決まって後は手続きだけだねという時にやるな、その前の段階でやれということです。また、法律分割をすることに決まって実際に手続きを終えてから「譲渡しました」というのはやめなさいということでもあります。遺言がなければ基本的に法律分割になる。その段階で譲渡をしてね、遺産分割協議の前にやってね、ということです。

譲渡は自分の財産の取り分を渡すことではなく「相続人という地位」そのものを渡すことです。これはとても重要なことですので頭の片隅に置いたまま次の項を読んでください。また、「地位そのものを渡す」ということを考えると、遺産分割前にやってくださいという意味も自然に理解できると思います。

譲渡によってできること

相続分を譲渡された人は「相続人の地位」を受け継いでいるので、相続人の一人として遺産分割協議に参加することができます。また、「相続人の地位」を受け継いでいるので、法律分割の場合は法律で決められた分の遺産を受け取ることができますし、遺産分割協議に参加した場合は遺産分割協議で決まった分を受け取ることができます。

「相続人の地位」を譲り渡されることが「譲渡」なのだから、相続人だけが対象の話し合い(遺産分割協議など)に参加できる。そして、遺産分割協議などの話し合いに参加できる地位を受け継ぐのは、その話し合いで遺産分割が終わっていてはいけない。つまり、前項の「譲渡は遺産分割前にやってね」というのは、こういった手続きのことを考えてだったのです。

遺産分割が終わった段階で地位を譲り渡すのはおかしな話です。なぜなら、もう地位が関係するような話し合いはなく、地位を譲られても「相続人の地位を持つ者」として参加しようがないのです。財産分割が終わっているなら、実際に受け継いだ遺産をそのまま贈与すればいい話です。

■遺産分割協議などの話し合いに参加すること
■譲渡された分をさらに譲渡すること
■遺産を受け取ること

譲渡によってできることは、大体このようなことになります。
なお、自分の持分を全て譲渡するのではなく、一部だけ譲渡することはできるのか?という問題ですが、「できる」という見解が通説になっています。

譲渡の注意点

■譲渡は誰に対してもできる
■譲渡は「相続人の地位の譲渡」である
■譲渡を受けると遺産分割協議などの話し合いに参加できる
■遺産を受け取ることができる
■譲渡は有償でも無償でもいい
■譲渡をする時は他の相続人の同意は不要
■譲渡は相続人に対してでも赤の他人に対してでもできる
■口約束でもOK
(ただし後のトラブル対策や手続きで必要になることを考えて書類を用意することが望ましい)
■相続分の一部譲渡も可能という見解が通説
■譲渡された分をさらに譲渡することもできる
■譲渡の際は他の相続人に通知をする

このように「相続分の譲渡」によってできること、「相続分の譲渡」の柔軟な部分は多いのですが、一部できないこと、柔軟性に欠ける部分もあります。

相続人以外の赤の他人が相続分の譲渡を受けた場合は、実際に遺産を取得した際に譲渡を受けた旨の書類で証明することにより不動産登記が可能です。ですが、金融機関では譲渡を受けた赤の他人からの預金払い戻しは基本的に認めていません。預金を分割した場合は相続人が払い戻しを受け、譲渡を受けた赤の他人に取り分を渡す必要があります。

なお、相続人に対し相続分の譲渡が行われた場合は手続き上のこのような制限を受けることはありません。譲渡を受けた者ではありますが、もともと自分の取り分を持つ相続人だからです。ですが、この場合も法律と異なる取り分を受け取っている場合は登記の際に証明する書類が必要になります。

こんな時に使える!

譲渡は相続による財産分与を待たずにすぐにお金が必要な時に使える方法です。また、相続分を持たない家族に相続財産を渡したい場合や、誰かに債務を弁済したい場合、相続争いに巻き込まれたくない場合にも使える方法です。

相続が始まった時にすぐにまとまったお金が欲しい場合に自分の相続分を売り払えばお金になります。譲った側に「俺はお金が手に入ったから、後は遺産分割協議なり何なり好きにやってくれ」と売り払ってしまうわけです。また、内縁の妻などの相続人にはならない家族に「長年連れ添っているのはあなただから」という形で故・内縁の夫の相続人となった両親が、内縁の妻に相続分を渡すことも可能です。

100万円の借金があるのだけれどお金がない。けれど相続分はあるという場合は「100万円の代わりにこれで勘弁してもらえないか?」と話しを持ちかけ、債権者が了承すればお金の代わりの弁済手段としても使えます。他に、遺産相続が荒れそうだと予想できる場合は、他の相続人に自分の相続分を売ってしまい、相続争いから離脱することもできます。

譲渡はかなり柔軟なものですので、使い方次第というところがあります。ただし、後の手続きとトラブル回避のために書類をお忘れなく。

裁判所|遺産分割Q&A
出典元:裁判所(2015年11月時点著者調べ)

譲渡の補足

相続分を自由に譲渡できることは分かった。けれど、それで起きてしまう問題もあるのは確かです。相続分の譲渡によって起きてしまう問題の解決方法について補足します。

赤の他人が相続に関与するのは嫌!

譲渡は他の相続人の同意を必要としませんので、第三者への譲渡をした場合に、譲渡後に「相続の話し合いに赤の他人が混じるのが嫌」という話になるのは珍しくありません。相続は極めて家庭の内部の話、家族の話という性質が強いため、そこに赤の他人が混ざると確かに嫌だなあという気はしますよね。ですが、赤の他人でも相続分の譲渡を受ければ相続人の地位を持っているわけですから、話し合いから爪弾きするわけにはいきません。こんな時はどうすればいいのでしょう?

赤の他人だけでなく、相続人も含め相続分の譲渡が行われた場合は、相続人の誰でも取り戻し請求をすることができます。これなら赤の他人に渡っても「あなたが譲り受けた相続分、相続人である私に売ってくれないかしら?」と持ちかけ、赤の他人が承諾すれば、極めてプライベート色の強い相続の話し合いに赤の他人が混ざることを阻止することができます。

ただし、取戻しには要件があります。

■第三者(赤の他人)に譲渡された場合であること
(相続人への譲渡の場合は取戻不可)
■譲渡されてから一カ月以内であること
■譲り受け人に取戻権を行使する旨通知をすること
(通知するだけでOKです。譲り受けた側の承諾は必要ありません)
■譲り受け人に相続分の価額と相当の費用を支払うこと
(通知するだけでOKで承諾を受ける必要はありませんが、実際に相続分の価額と譲り受けの際に出費した費用を支払う必要があります。無償で譲渡された譲り受け人に対しても「無償だからタダで返せ」とは言えません。相続分の価額と必要費を支払わなければいけません)

譲渡された相続分の取戻権にはこのように要件がありますが、権利を行使すれば赤の他人が相続の話し合いに参加することを防ぐことができます。

人の相続分を勝手に譲渡したら?

自分の相続分だけを譲渡するのは自由ですが、他の相続人の分まで勝手に譲渡してしまったらどうなるのでしょう?例えば、相続人である息子二人AとBのうちのAが赤の他人に亡くなった父親名義の不動産を渡してしまい、その上、赤の他人名義で登記をしてしまいました。

本来であれば、相続分は息子二人が相続人ですから不動産を1/2ずつ分けることになったはずです。そして、Aの持分である1/2は赤の他人に譲渡したとしてもBの同意は必要なかったことになりますから、自分の分だけ譲渡していれば何も問題はありませんでした。しかしこのケースではBの相続分も勝手に譲渡されてしまったのです。こんな時はどのように解決を図ればいいのでしょう。

結論を申し上げると、Bは自分の持分である1/2に関しては取り戻すことができます。登記も自分の持分である1/2に関しては抹消を請求することができます。AはBの持分である1/2に関しては権利のない存在ですから、赤の他人に譲り渡すことなどできないのです。これを認めてしまえば、あなたの家を見ず知らずの赤の他人が同じく見ず知らずの人に勝手に譲ってしまった場合、それが有効とさえ考えられる可能性があるからです。

AはBの持ち分である1/2に関しては権利がないので、勝手に譲渡されてしまったBは、赤の他人が登記を備えていようがいまいが取戻可能、もし登記を備えていれば抹消請求が可能です。

預金を勝手に払い戻してしまった場合は、銀行側に「お父さんが亡くなっているのを知っていたのにAの払い戻しに応じた」などの過失がない場合は、その払い戻しは有効です。ですから銀行側に「何てことしてくれたんだ、金返せ!」とは言えません。この場合は、Bは、Aに対し「俺の取り分を返せ」という形で責任を追及することになります。



まとめ

自分の相続分は自分のものですから、誰に認められる必要もなく譲渡が可能です。譲渡相手は赤の他人でも良いですし、同じ相続人でも構いません。また、親族の中の相続権を持たない人に対して譲渡をしてもいいです。

譲渡を受けた人は財産を譲り受けるのではなく相続人の地位そのものを譲り受けることになりますから、遺産分割協議を始めとした相続人だけの話し合いに参加が可能です。ただ、遺産分割協議などは家庭内の話し合いという性質が強いものですから、赤の他人に入って来られるのは嫌だという感情はあるでしょう。そんな問題を解決するために、赤の他人に相続権が譲渡された場合は取戻権を行使して譲渡分の取戻しが可能です。

「なぜそんなことをする必要があるのか」と、譲渡に対して考えることと思います。譲渡は遺産分割を待つ余裕なくお金が必要な人や、債務を抱えている相続人、相続権のない相続人が相続権を得るためなどメリットは確実にあります。譲渡してしまえば相続の話し合いから離脱するわけですから、相続トラブルとは関わりたくない人にも大きなメリットがあります。

いかがでしょうか。以外に使える方法ですよ、相続分の譲渡は。 ※本記事は一般的な情報に過ぎず、適用法令等の改正、前提事実や個人状況の違いおよび変化によって、掲載内容と実際の結果が異なってしまう可能性があります。従って本記事の掲載内容については一切の責任を負いかねますので、内容の解釈や実践はご自身の責任で行い、専門家に相談されることを推奨いたします。